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2021.06.21 病原体

子どもへの新型コロナワクチンの接種、勧めるべきか? 著者:渡辺 彰

 

我が国でも2021年6月1日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン接種対象年齢の下限が12歳に引き下げられました。さらに低年齢の小児の臨床試験も進行中ですから、今後さらに引き下げられる見込みです。一方で、子どもへの接種に否定的な意見も散見されます。どう考えればよいでしょうか?

米国と日本の小児科学会から子どもへのワクチン接種に関する提言・見解が出ました。内容には温度差があります。日本の見解(1)は、子どもを感染から守るためには、周囲の成人の免疫獲得が重要であり、成人の接種が優先されるべきとし、健康な子どもはもちろん、特に医療的ケア児等や重篤な基礎疾患を持つ子どもに関わる者は、職種・勤務形態を問わずワクチン接種が重要、としています。その上で子どもへは、本人と療育者へ十分に説明しての個別接種を勧めています。子どもの副反応が多いという報告や、mRNAワクチン接種後の心筋炎の可能性をCDC(米国疾病管理予防センター)が検討する予定、などと情報が確かにまだ不十分でもあり、まずは周囲の成人への接種を優先する、というやや慎重な対応と言えます。

米国の提言(2)は詳細かつ積極的です。米国小児科学会は、米国で2020年末までに小児のCOVID-19感染例が200万例以上発生し、5歳未満でも重症化することがあり、12~17歳では重症化の比率が高く、集中治療の例もあったと報告しています。その上で、子ども自身だけではなく、周囲の妊婦や高齢者への感染防止のためにも、子どもへの接種の有用性が確認され次第、子どもへの接種を義務化すべきとし、その根拠を以下(一部を集約)のように示しています。

1)子どもの感染の多くは無症候~軽症だが、まれに重症の川崎病類似の小児多系統炎症性症候群(MIS-C)や呼吸器疾患がある、2)子どもの感染でウイルスが排泄され、親や教師、周囲の子どもが感染する、3)ワクチン以外の予防策は十分ではない、4)変異株の感染力は強いが、ワクチンの効果はかなりある、5)集団免疫獲得のためには子どもへの接種も重要である、6)子どものワクチンプログラムは国際的にも実績があり、十分に整備された仕組みがある、7)教師に続く子どもへの接種で、学校の開校と子どもの活動を正常化させられる、というものです。

COVID-19の重症化/死亡率はインフルエンザのそれを超えていますから、そのワクチン接種は、子どもを含めて、できるだけ積極的に行うのが良策と考えます。

(著者:東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授/公益財団法人宮城県結核予防会 理事長 渡辺 彰)

〔文献〕
(1)公益社団法人日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会:新型コロナワクチン~子どもならびに子どもに接する成人への接種に対する考え方.
www.jpeds.or.jp/uploads/files/20210616__corona.pdf
(2)Plotkin SA et al:Considering mandatory vaccination of children for COVID-19. Pediatrics 147:e2021050531,2021

著者プロフィール

渡辺 彰(わたなべ あきら)

東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授
公益財団法人宮城県結核予防会 理事長

日本感染症学会専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会指導医。東北大学加齢医学研究所抗感染症薬開発寄附研究部門教授・日本感染症学会理事・日本結核病学会理事長・日本化学療法学会理事長を歴任。2013年、結核医療とインフルエンザ医療に関する貢献で第65回保健文化賞,2017年、抗インフルエンザ薬の臨床開発とインフルエンザ感染症対策の推進への貢献で日本化学療法学会の第28回志賀 潔・秦 佐八郎記念賞を受賞している。

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東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授 渡辺 彰
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