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2021.03.29 病原体

結核は減少しているが、その変貌には要注意! 著者:渡辺 彰

 

結核は、急性灰白髄炎(ポリオ)や急性呼吸器症候群(SARS)と同じ2類感染症です。その蔓延状況を表す罹患率(人口10万対の1年間の新規発症者数)は、10以下が低蔓延、10~100は中等度蔓延、100以上が高蔓延と定義されています。先進国の中でも我が国は罹患率が高く、米国の罹患率が10を下回った1980年代、まだ40を超えていました。その後、順調に減ってはきたものの、2000年の罹患率は31.0(発症者数39,384名、以下同)、2005年は22.2(28,319名)、2010年が18.2(23,261名)という減少ペースでした。

その後も2015年が14.4(18,280名)、2017年 13.3(16,789名)、2019年 11.5(14,460名)と減少のペースは鈍く、2020年に10以下へという国の目標の実現は危ぶまれていました。ところが、2020年は9.9(12,430名)と、前年から2,000名の大きな減少があって初めて10を切りました(1)。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行に伴って肺炎死亡者数が減り、インフルエンザや種々の小児感染症の発症も大きく減ったのと軌を一にしているようです。また後述するように、結核には輸入感染症の側面もあり、海外からの来日制限も患者数減少に寄与したと思われます。しかし、安心はできません。

COVID-19の流行に伴い、症状があっても受診を控え、重症化してから初めて医療機関を受診するという傾向があり、結果として重症結核が増えることが恐れられています。また、近年の我が国の結核疫学の構造は大きく変わってきており、高齢者と15~30歳の2つの集団に発症が集中してきています。高齢者は、若いころに結核に感染しても肺の中などに肉芽腫を作って結核菌を封じ込めて幸いに発症しなかった(=潜在性結核感染症)ものの、高齢になって種々の基礎疾患や合併症を抱えたり、免疫能の低下などで封じ込めが困難になって発症する(=内因性再燃)例が多くなっているのです(注)。

若い集団の発症者の過半数は国外出生者で占められ、増加しています。彼らは主に、東アジアの結核高蔓延国から就労・留学等の目的で来日した人たちです。そのため昨年には、特にその数が多い6ヵ国から長期滞在ビザや就業ビザを使って日本へ入国する場合には、入国前に本国で結核スクリーニングを受けることが義務付けられる運びになったところです。結核は、現在でも世界で20億人が結核に感染していて、毎年1,000万人が新たに発症し、100万人以上が亡くなっていることを忘れてはなりません。

(注)ヒトが結核菌の曝露を受けても、曝露菌量の影響などがあって感染が成立するのは約1/3前後で、実際に発症するのはさらにその約1/10とされる。発症する人の2/3は感染から2年以内に発症し、1/3は2年以降~数十年後に発症するが、主に後者が潜在性結核感染症(LTBI:Latent Tuberculosis Infection)として治療対象になる。

(著者:東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授/公益財団法人宮城県結核予防会 理事長 渡辺 彰)

〔文献〕
(1)公益財団法人結核予防会疫学情報センター:結核登録者情報調査月報報告—2020年 12月概況-.https://www.jata.or.jp/rit/ekigaku/updated/

著者プロフィール

渡辺 彰(わたなべ あきら)

東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授
公益財団法人宮城県結核予防会 理事長

日本感染症学会専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会指導医。東北大学加齢医学研究所抗感染症薬開発寄附研究部門教授・日本感染症学会理事・日本結核病学会理事長・日本化学療法学会理事長を歴任。2013年、結核医療とインフルエンザ医療に関する貢献で第65回保健文化賞,2017年、抗インフルエンザ薬の臨床開発とインフルエンザ感染症対策の推進への貢献で日本化学療法学会の第28回志賀 潔・秦 佐八郎記念賞を受賞している。

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