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2021.01.28 病原体

BCG接種と新型コロナ感染―日本・東アジアはなぜ、新型コロナに強いのか 著者:徳田 均

 

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の第2波が世界で猛威を揮っています。日本でも緊急事態宣言が出されるなど、緊張の日々が続いています。その中で、日本の死亡率が欧米の1/50程度で済んでいることが改めて広く認識されるようになりました。これは偶然でしょうか?

この感染症が世界に広まってから間もなく1年になりますが、この間、日本の低い死亡率は一貫しています。そして、これは日本に限ったことではなく、東アジア諸国に共通しているのです。何か東アジアに特別な因子があると想定する方が自然です。

初期から、生活習慣(マスクなど)、清潔を好む文化などが語られてきました。しかし、これらの因子が寄与しているにせよ、1/50もの差を説明できるとは考えられません。肥満はCOVID-19重症化の大きなリスク因子です。この肥満率は欧米では非常に高く、日本では低いです。したがって、この因子の寄与も大きいとは思います。ですが、もっと大きく、東アジア人はウイルスに対する免疫反応が異なるのではないか、と考えるのが自然な発想です。

流行の当初より、COVID-19の死亡率はBCGの広範接種国では低く、接種を一度も行ったことがない、あるいは行っていたが30、40年前に中止した国では高いことが見い出され、その強い相関が議論されてきました。世界各国のCOVID-19の死亡率とBCG接種ポリシーを調べた米国の大規模な疫学研究では、BCG指数が10%高いとCOVID-19の死亡率が10.4%低くなる、との関係が見い出されています。

では、なぜBCG接種とCOVID-19重症化とに関係があるのでしょうか?

以前から、BCG接種を受けた人は、様々なウイルス感染や呼吸器感染の罹患率、死亡率が低いことが疫学的に知られていました。10年ほど前から免疫学者達が、BCG接種後、免疫系に何が起こるかの研究を始め、大きな成果を挙げています。BCG接種後、マクロファージなどの自然免疫(多くの感染症と同じく、コロナウイルス感染ではこの自然免疫が大きな働きをする)の働きが強化されること、そしてこの効果は長期間持続しうる(普通自然免疫は持続しない)ことが判り、その遺伝子的な仕組みも解明されました。これを訓練免疫と呼びます。BCGのこうした効果(オフターゲット効果:結核菌以外に対しても発揮される免疫強化効果)については、こうして疫学的説明、免疫学的説明も備わりました。弱点と言われてきた前向き研究での証明も整ってきています。

このように防御力を高めることがほぼ確実なBCG接種を、COVID-19制御のツールに加えるかどうかは未だ趨勢(すうせい)が定まっていませんが、いずれにせよ、日本を守ってくれている因子の一つとして見直されて良いと思います。

(著者:JCHO東京山手メディカルセンター呼吸器内科 非常勤顧問 徳田 均)

著者プロフィール

徳田 均(とくだ ひとし)

JCHO東京山手メディカルセンター呼吸器内科 非常勤顧問

1973年東京大学医学部医学科卒業、1991年社会保険中央総合病院呼吸器内科部長、2013年東京女子医大附属膠原病リウマチ痛風センター客員教授を兼任、2014年JCHO東京山手メディカルセンター常勤顧問、2015年より現職。
所属学会;日本呼吸器学会、日本結核病学会、日本感染症学会、など。専門分野;結核、非結核性抗酸菌症の診断と治療、間質性肺炎、慢性下気道炎症

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