新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の診断には現在もっぱらPCR検査が使われています。このPCR検査で陽性と出たら、間違いなく感染者であり、周りへうつす危険があり、隔離されねばならないとされています。しかし、この決め方は妥当なのでしょうか?
PCR検査は定性検査(陽性か陰性かという判定)ではありません。RT-PCR法という半定量的検査です。検体内のウイルスの核酸を倍々に増やしていく訳ですが、何回増幅を繰り返したら目的のウイルスの遺伝子が検出されるかという値、Ct値(cycle threshold)で判定しています。Ct値はウイルス量を反映すると考えられています。少ないサイクル数(増幅回数)で陽性となればウイルス量は多く、多いサイクル数が必要だとウイルス量が僅かであることを意味します。
COVID-19のPCR検査では、わが国ではCt値が40までを陽性とする事になっています。これはWHOの技術指針などを元に、わが国の国立感染症研究所が定めたものです。しかし、この決め方は適切なのかが、今問題となってきています(1)。諸外国の実情は、欧州では30~35、中国では36以下、37~40では再検査を推奨、米国では40、など様々です。
最近世界中で言われ始めていることは、Ct値は30~35までが適正であり、それ以上の高いCt値では、極めて微量のウイルスあるいはウイルスの残骸を拾っているだけで、そのような人は他への感染性はなく、隔離する必要は無いのではということです。検査の一番の目的は、他に感染させるおそれのある人を見つけ出すことですから、これは重大なことです。
感染性の研究は、ウイルスの培養を行い、培養陽性であればそのウイルスは生きており感染性あり、培養陰性であれば感染性無し(つまり壊れたウイルス)、と言う形で行われます。イギリス、フランスから大規模な調査結果が発表されています。フランスの研究では、Ct値が34以上では生きたウイルスは検出されませんでした。イギリスの研究では、 Ct値が35以上の培養陽性は8.3%でした。症状の無い人に限って見ると、培養陽性の人のCt値は18~32の間に分布していました。これらを合わせると、Ct値35以上の人について、生きたウイルスを持っている可能性は非常に低く、特に症状の無い人(接触者など)においては35以上の場合、感染性はほぼ無いと推論されます。わが国では国立感染症研究所からも同様の研究が発表されています(2)。
こうしてみると、Ct値のカットオフ値については30~35あたりが妥当、とする内外の研究者の声ももっともと思われます。
この現実的なカットオフ値を採用することで、日々発表されている“感染者数”は、大幅に減ると考えられます。それだけで人々の恐怖、行動萎縮は随分と和らぐのではないでしょうか?
(著者:JCHO東京山手メディカルセンター呼吸器内科 非常勤顧問 徳田 均)
〔文献〕
(1)日本経済新聞:PCR「陽性」基準値巡り議論、日本は厳しめ?(11月8日)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO65910480W0A101C2CE0000/
(2)国立感染症研究所:新型コロナウイルス感染症患者からのウイルス分離状況―感染性の評価(9月29日)
https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2502-idsc/iasr-in/9878-487d03.html