2021年春、新型コロナウイルス感染症に対するワクチン接種がわが国でも始まります。既に海外で接種が始まったファイザー社/ビオンテック社とモデルナ社/米国国立衛生研究所(NIH)の2つのワクチンは、いずれもこのウイルスのスパイク蛋白をコードするmRNAを微小な脂質粒子に組み込んだワクチンですが、超低温保存が必要です。次に承認される見込みのアストラゼネカ社/オックスフォード大学のワクチンは、スパイク蛋白の遺伝子をアデノウイルスに組み込んだウイルスベクターワクチンであり、常温保存が可能です。
3つのワクチンは、いずれも新型コロナウイルスのスパイク蛋白に対する免疫を惹起して感染そのものを抑えますが、臨床試験では重症化を抑える効果も見られます。非接種者に対して接種者の感染がどのくらい抑えられるかを示すワクチン効果は、前2者では90%~94.5%でしたが、アストラゼネカ社のワクチンでは70%の効果と報道されています。大きな差ですが、その中間報告(1)に興味ある成績が見られます。初回は半量を接種し、2回目に全量を接種すると高いワクチン効果が得られた、というのです。
今回は英国とブラジルの計11,636名について解析しています。ワクチン効果は全体で70.4%でしたが、同量2回接種群(本ワクチン4,440例、対照の髄膜炎菌ワクチン4,455例)における本ワクチンのワクチン効果は62.1%なのに対し、初回半量接種群(1,374例)におけるワクチン効果は90.0%でした(P=0.010)。同ワクチンを創製したオックスフォード大学グループは、初回に少ない量を接種すると2回目に免疫が大きく惹起される起爆剤の役割を果たすようだと言っていますが、これまでは1回目と2回目で異なる量を接種するワクチンはありませんでした。そのメカニズムが解明出来れば、今後のワクチン接種に大きな変革が起るかも知れません。なお、本ワクチン接種に起因する有害事象は3例見られ、被検群/対照群/群不明が各1例だったとしています(群不明例は今回の解析にはまだ含まれておらず、どちらが接種されたはかまだ不明です)。
(著者:東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授/公益財団法人宮城県結核予防会 理事長 渡辺 彰)
〔文献〕
(1)Voysey M et al:Safety and efficacy of the ChAdOx1 nCoV-19 vaccine (AZD1222) against SARS-CoV-2: an interim analysis of four randomised controlled trials in Brazil, South Africa, and the UK. Lancet Dec.8, 2020
https://doi.org/10.1016/S0140-6736(20)32661-1