最近、英国にて感染力が強い新型コロナの変異株が発生したという報道がなされ、周辺諸国が英国との交通を遮断するなどの対応を実施しました。この変異株というのは何でしょうか?
新型コロナは遺伝情報の設計図をRNAとして持っています(人間はDNAとして持っています)。RNAウイルスが増殖するときには、RNAを複製していくのですが、RNA ウイルスの最大の特徴は,頻繁に複製ミスを起こすことです。遺伝情報にミスが発生することによって、別の性格をもったウイルスが発生することがあります。それを変異株と言います。新型コロナは他のRNAウイルスに比較して変異の頻度は少ないものの、やはり変異株は発生します。
このウイルスは表面にスパイク蛋白と呼ばれる突起物があり、これによって、人間の細胞に接着して、感染します。スパイク蛋白に変異がみられ、これまでのウイルスよりも伝播力が強い変異ウイルスが生まれることがあります。肺組織でのウイルスの増殖が速く、多くのウイルスが発生し、感染力が増加するといった状況です。ただ、感染力が強いということが、強毒性になったことを意味しないことは知っておくべきです。
今後、新型コロナに対するワクチンが利用できるようになりますが、このワクチンはスパイク蛋白に対する免疫を獲得することを目的として作成されています。そのため、スパイク蛋白に変異が発生すると、ワクチンの効果が減弱するのではないかと心配されることがありますが、現時点ではそのような問題はなさそうです。
変異によって、感染力が強くなったといっても、感染経路には変化はありません。すなわち、飛沫によって伝播します。そのため、ユニバーサル・マスキング(すべての人々は互いをウイルスから守るためにマスクを着用する感染対策)が有効です。もちろん、手指の清潔も大切であり、石鹸と水道水による手洗いやアルコール手指消毒が大切です。狭い空間に多数の人々が入っている状況ならば換気する必要があります。このような感染対策を適切かつ常時実施することによって、変異株であっても十分に対応できます。
(著者:浜松医療センター 院長補佐 兼 感染症内科部長 兼 衛生管理室長 矢野 邦夫)