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2020.11.06 病原体

2020/2021シーズン 今季のインフルエンザワクチンはどうする? 著者:渡辺 彰

 

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)との同時流行の可能性がある今、インフルエンザへの備えは例年にも増して重要ですが、ワクチン接種は今すぐにでも行える予防策です。現行のインフルエンザワクチンは4種類のウイルス亜型に対応する4価ワクチンですが、毎シーズンのインフルエンザの流行を予測しながらワクチンに用いる株を少しずつ変更しており、今年も少し変わっています(1)。

今シーズンの接種開始時期は、65歳以上の高齢者が先行して10月1日から、他の人は10月26日からとされ、例年より早い時期から接種が始まっていますが、早く打てば早く免疫がなくなるのでは? と心配する人がいます。5~6か月で免疫が下がるとも言われるのですが、これはインフルエンザウイルスに対する血中のヘマグルチニン(HA)抗体価が、半数以上のヒトで「防御水準」の40倍を下回り始める期間を言っているだけです。いったん確立した免疫には記憶が成立しているため、40倍を下回った時期に感染しても未接種者より早く免疫が回復し、より強く防御することが出来ますから、安心して接種したいものです。

接種を毎年繰り返すことも重要です。新型インフルエンザウイルスA/H1N1pdm09が出現した2009年の数年前から保存されていたインフルエンザワクチン接種前後の血清を用い、新型の株をも含めて再調査した成績(2)があります。ワクチンに含まれるA/H1N1ソ連型株に対する抗体価はもちろん接種後では大きく上昇していましたが、注目すべきは、その時点で存在しなかったA/H1N1pdm09に対する動きです。接種後にはやはり上昇しており、まだ出現していないウイルスに対する免疫抗体価まで上がったのです。インフルエンザワクチンの接種によりそのワクチンに特有の抗原性だけでなく,インフルエンザウイルスに広く共通する抗原性にも対応できる抗体反応が惹起される、という最近の研究(3)もあります。

毎年少しずつ変わっていくワクチン株の接種で、当面のウイルス株を超える広範囲の免疫が形成されるオフターゲット効果が得られるので、毎年のワクチン接種は重要なのです。

(著者:東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授/公益財団法人宮城県結核予防会 理事長 渡辺 彰)

〔文献〕
(1)国立感染症研究所:インフルエンザワクチン株.
https://www.niid.go.jp/niid/ja/flu-m/2066-idsc/related/584-atpcs002.html
(2)CDC:Serum cross-reactive antibody response to a novel influenza A (H1N1) virus after vaccination with seasonal influenza vaccine. MMWR 58(19):521-524,2009
(3)Turner JS, et al:Human germinal centres engage memory and naive B cells after influenza vaccination. Nature 586:127-132, 2020

著者プロフィール

渡辺 彰(わたなべ あきら)

東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授
公益財団法人宮城県結核予防会 理事長

日本感染症学会専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会指導医。東北大学加齢医学研究所抗感染症薬開発寄附研究部門教授・日本感染症学会理事・日本結核病学会理事長・日本化学療法学会理事長を歴任。2013年、結核医療とインフルエンザ医療に関する貢献で第65回保健文化賞,2017年、抗インフルエンザ薬の臨床開発とインフルエンザ感染症対策の推進への貢献で日本化学療法学会の第28回志賀 潔・秦 佐八郎記念賞を受賞している。

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編集:
東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授 渡辺 彰
帝京大学医学部微生物学講座 主任教授 斧 康雄
国立病院機構東京病院 呼吸器センター部長 永井 英明


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