新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のニュースに紛れながらも、米国の今シーズンのインフルエンザ死亡者数は2万人を超えたと報道されています。確かに、米国疾病管理予防センター(CDC)のWeekly Reportは、今シーズンの2020年第11週までの死亡数を23,000人としています(https://www.cdc.gov/flu/weekly/#S3)。しかし、このレポートを詳細に見ると、この数はここ数シーズンと大きく変わってはおらず、2017-18シーズンの方が多いくらいです。今シーズンの状況はいつもと同じなのですが、米国のインフルエンザ医療はわが国とどう違うのでしょうか? ちなみに、日本の毎シーズンのインフルエンザによる死亡者は数千人単位と言われています。
2009年の新型インフルエンザ(A/H1N1pdm09が新しく出現してパンデミックを起こし、現在は季節性とされている)の被害状況を見るとよく分かります。2010年6月の厚生労働省の新型インフルエンザ(当時)による世界の死亡に関する報告では、世界最小が日本(死亡総数199人、人口10万対で0.16)、最大が米国(2010年2月までで死亡総数が約12,000人、人口10万対で3.92)でした。人口比で約3倍の米国が約60倍の被害を出したのですが、なぜでしょうか?
今回のCOVID-19においても、米国の感染者数や死亡者数が多いことに関しては、米国の人口当たりのベッド数や医療要員数が少ないこと、わが国のような国民皆保険体制ではなく、オバマケアによって減ったとはいえまだ3000万人近くが無保険者であること、医療保険の多くが民間保険でその内容に大きな差があり、低所得者は十分な医療を受けられないこと、などが指摘されています。端的に言えば急性感染症に対する医療体制が貧弱なのです。
わが国では国民皆保険体制の下、均質・公平かつ安価で、アクセスも容易で迅速な優れた医療体制が確立されています。多種類の抗インフルエンザ薬が使用可能で、簡便で正確な迅速診断キットも数多く実用化されています。医療者のモラルも高く、わが国のインフルエンザ医療の水準は世界最高と考えてよいでしょう。