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2020.03.27 病原体

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重要ポイント 著者:矢野 邦夫

 

■COVID-19とSARS-CoV-2

  • 世界保健機関(WHO: World Health Organization)は新型コロナウイルス感染症の正式名称を「COVID-19」と命名しました(1)。これは「Coronavirus Disease 2019」に由来しています。また、国際ウイルス分類委員会(ICTV)はCOVID-19の病原体名を「SARS-CoV-2」と命名しました(2)。これは「Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2」に由来しています。
  • これまで、ヒトに感染できるコロナウイルスは6種類が知られていました。感冒の約10%の原因となっているコロナウイルスとして4種類(229E、NL63、OC43、HKU1)があり、その他のコロナウイルスとしてSARS-CoVおよびMERS-CoVがありました。SARS-CoVは重症急性呼吸器症候群の原因ウイルスであり、MERS-CoVは中東呼吸器症候群の原因ウイルスです。これに新たに加わったコロナウイルスがSARS-CoV-2です(3)。
  • COVID-19は2019年12月30日に原因不明の肺炎患者が相次いで発生したことから始まり、瞬く間に世界に拡散していきました(4)。発生当初は、武漢の海鮮市場の動物や環境が原因であると推測されていましたが、現在はヒト-ヒト感染であることが明らかとなっています。
  • 2020年1月30日、WHOはCOVID-19を「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC : Public Health Emergency of International Concern)」であると宣言しました(5)。
  • 2020年2月1日、日本では「新型コロナウイルス感染症」は感染症法の指定感染症に指定されました(6)。
  • COVID-19の基本再生産数(1人の感染者が、誰も免疫を持たない集団に加わった時、平均して何人に直接感染させるかという人数)はインフルエンザでは1~2ですが、COVID-19は0~2.5です。潜伏期間はインフルエンザでは1~3日ですが、COVID-19は5~6日です。発症間隔(発症から次の発症までの間隔)はインフルエンザでは3日ですが、COVID-19は5~6日です。これらを総合すると、COVID-19よりもインフルエンザの方が伝播するスピードは速いということになります(7)。

 

■臨床症状と臨床経過

  • 潜伏期間は平均5~6日(中央値5~6日:範囲1~14日)です(8)。
  • 重症度は軽症が80% 、重症(酸素療法が必要)が8% 、重篤(人工呼吸器が必要)が6.1%です。重症化のハイリスクは高齢者と基礎疾患のある人です(8)。
  • 症状は発熱、乾性咳嗽、倦怠感が多く報告されています(8)。重症患者では発症してから、5日目で呼吸苦がみられ、7日目に入院し、8日目に急性呼吸窮迫症候群(ARDS: Acute Respiratory Distress Syndrome)となっています(9)。
  • 中国CDCによる72,314症例のレビューでは、10歳未満の小児は1%にすぎませんでした。小児患者171人の検討では、発熱を呈したのは5%でした。小児患者の15.8%は感染症状もレントゲンでの肺炎像もみられませんでした。また、肺炎像がみられても、症状のない小児もいました。人工呼吸器が必要となった小児もいましたが、水腎症、白血病、腸重積などの基礎疾患を持っていました(10)。
  • 羊水にはウイルスは検出されませんでした。COVID-19の母親に生まれた幼児での感染はありませんでした。母乳からウイルスは検出されず、母乳を介して伝播したとの報告もありません(11)。

 

■致死率

  • 致死率はMERSが37%、SARSが10%ですが(12)、COVID-19は7%(日本: 2020年3月24日現在)です(13)。この致死率は無症状もしくは軽症の患者数が把握されてゆくと、さらに低下するものと思われます。実際、武漢市での致死率は当初は20%以上であったものが、現在は3%ほどまで低下しています(8)。
  • 致死率は年齢とともに高くなり、70~79歳で8.0%、80歳以上では14.8% です(14)。
  • 基礎疾患があると致死率は高くなります。合併症のない人の致死率は4%ですが、心臓血管疾患の基礎疾患があると13.2%、糖尿病は9.2%、高血圧は8.4%、慢性呼吸器疾患は8.0%、癌では7.6%と報告されています(8)。

 

■CT所見

  • CT上の病変は発症後1~2週間で顕著な拡大を示し、3週目から徐々に軽減する傾向にあります(15)。
  • 空気気管支像(air bronchogram)、境界不明瞭、右下葉の僅かな優位性を伴う、両側性、胸膜下、すりガラス状の陰影を示します。このような肺CTの異常所見は無症候性感染者でもみられることがあります(15)。
  • CT所見はいずれも特異的または診断的ではないので、CTによってCOVID-19と診断することはできません(15)。

 

■ウイルス量

  • 発症直後から、高いウイルス量が検出されます。咽頭よりも鼻腔の方がウイルス量が多いことが知られています(16)。
  • COVID-19のウイルス排出は発症初期に多く、発症後10日頃にピークを示すSARSとは異なります(17)。
  • 感染者が排出するウイルス量の研究では、無症状患者のウイルス量は有症状患者に近く、無症状~軽症の患者は感染性がある可能性が指摘されています(16)。また、欧州CDCも発症前に感染性があることを指摘しています(18)。したがって、COVID-19の患者は発症前から感染性があると考えるべきです。

 

■感染対策

  • COVID-19は飛沫感染および接触感染にて伝播します。そのため、感染対策は「標準予防策+飛沫予防策+接触予防策」を実施します。エアロゾル産生処置の時には空気予防策を加えます(19)。
  • 個人防護具としては手袋、ガウン、マスク(サージカルマスクまたはN95マスク)、フェイスシールドを用います。飛沫が結膜に付着することによって感染したとする報告があるので、ゴーグルやアイシールドは必ず使用します(20)。これらは適切に着用し、適切に取り外すことが重要です。特に、取り外す時に、身体や周囲環境を汚染しないように細心の注意を払います。
  • SARS-CoV-2が環境表面にどれだけ生存することができるかの研究結果が報告されました。それによると、ボール紙の上では24時間以内、ステンレスやプラスティックの上では3日以内と報告されています(21)。このように比較的長時間の生存時間であるため、手指の高頻度接触表面(ドアノブなど)を重点的に清掃することが大切です。
  • 現在まで、香港で1匹のイヌが感染したという報告がありますが、イヌ、ネコ、その他のペットがCOVID-19を伝播させたというエビデンスはありません(22)。

 

■治療

  • 治療は対症療法です。肺炎患者や重症患者に対しての副腎皮質ステロイドの全身投与は推奨されません。
  • ロピナビル/リトナビル(抗HIV薬)、ファビピラビル(抗インフルエンザ薬)、レムデシビル(新規ヌクレオチドアナログのプロドラッグ)、シクレソニド(吸入ステロイド喘息治療剤)などが治療薬の候補として挙げられています(23)。

〔文献〕
(1)WHO:WHO Director-General’s remarks at the media briefing on 2019-nCoV on 11 February 2020.
https://www.who.int/dg/speeches/detail/who-director-general-s-remarks-at-the-media-briefing-on-2019-ncov-on-11-february-2020
(2)International Committee on Taxonomy of Viruses:ICTV
https://talk.ictvonline.org/
(3)CDC: Human coronavirus types.
https://www.cdc.gov/coronavirus/types.html
(4)Wang C et al:A novel coronavirus outbreak of global health concern.
https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(20)30185-9/fulltext
(5)WHO:2019-nCoV outbreak is an emergency of international concern.
http://www.euro.who.int/en/health-topics/emergencies/pages/news/news/2020/01/2019-ncov-outbreak-is-an-emergency-of-international-concern
(6)厚生労働省:感染症法に基づく医師の届出のお願い.
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/kekkaku-kansenshou11/01.html
(7)WHO:Q&A: Similarities and differences –COVID-19 and influenza.
https://www.who.int/news-room/q-a-detail/q-a-similarities-and-differences-covid-19-and-influenza
(8)WHO:Report of the WHO-China Joint Mission on Coronavirus Disease 2019 (COVID-19).
https://www.who.int/docs/default-source/coronaviruse/who-china-joint-mission-on-covid-19-final-report.pdf
(9)Wang D et al:Clinical characteristics of 138 hospitalized patients with 2019 novel coronavirus- infected pneumonia in Wuhan, China.JAMA 323:1061-1069,2020
https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2761044
(10)Lu X et al:SARS-CoV-2 Infection in Children.N Engl J Med 2020 DOI: 10.1056/NEJMc2005073
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMc2005073?query=featured_coronavirus
(11)CDC:Pregnancy & Breastfeeding Information about Coronavirus Disease 2019.
https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/specific-groups/pregnancy-faq.html
(12)Wang C et al:A novel coronavirus outbreak of global health concern.Lancet 395:470-473,2020
https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(20)30185-9/fulltext
(13)WHO:Coronavirus disease 2019 (COVID-19) Situation Report-64.
https://www.who.int/docs/default-source/coronaviruse/situation-reports/20200324-sitrep-64-covid-19.pdf?sfvrsn=703b2c40_2
(14)Wu Z et al:Characteristics of and Important Lessons From the Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) Outbreak in China:Summary of a Report of 72 314 Cases From the Chinese Center for Disease Control and Prevention.JAMA 2020 doi:10.1001/jama.2020.2648
https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2762130
(15)Shi H et al:Radiological findings from 81 patients with COVID-19 pneumonia in Wuhan, China: a descriptive study.Lancet Infect Dis 2020 doi: 10.1016/S1473-3099(20)30086-4
https://www.thelancet.com/action/showPdf?pii=S1473-3099%2820%2930086-4
(16)Zou L:SARS-CoV-2 Viral Load in Upper Respiratory Specimens of Infected Patients. N Engl J Med 382:1177-1179, 2020
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMc2001737
(17)Peiris JSM et al:Clinical progression and viral load in a community outbreak of coronavirus-associated SARS pneumonia: a prospective study. Lancet 361: 1767-1772,2003
https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(03)13412-5/fulltext
(18)European Centre for Disease Prevention and Control:Novel coronavirus disease 2019 (COVID-19)pandemic: increased transmission in the EU/EEAand the UK–sixth update.
https://www.ecdc.europa.eu/sites/default/files/documents/RRA-sixth-update-Outbreak-of-novel-coronavirus-disease-2019-COVID-19.pdf
(19)WHO:Infection prevention and control during health care when novel coronavirus (nCoV) infection is suspected.
https://www.who.int/publications-detail/infection-prevention-and-control-during-health-care-when-novel-coronavirus-(ncov)-infection-is-suspected-20200125
(20)Lu CW et al:2019-nCoV transmission through the ocular surface must not be ignored. Lancet 395:e39,2020
https://www.thelancet.com/pdfs/journals/lancet/PIIS0140-6736(20)30313-5.pdf
(21)N van Doremalen et al:Aerosol and surface stability of SARS-CoV-2 as compared with SARS-CoV-.N Engl J Med. 2020 doi:10.1056/NEJMc2004973
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMc2004973
(22)WHO:Q&A on coronaviruses (COVID-19).
https://www.who.int/news-room/q-a-detail/q-a-coronaviruses
(23)McCreary EK et al:COVID-19 Treatment: A Review of Early and Emerging Option.Open Forum Infectious Diseases 2020
https://academic.oup.com/ofid/advance-article/doi/10.1093/ofid/ofaa105/5811022

著者プロフィール

矢野 邦夫(やの くにお)

浜松医療センター 院長補佐 兼 感染症内科部長 兼 衛生管理室長

インフェクションコントロールドクター,日本感染症学会専門医・指導医。感染制御の専門家として多くの著書・論文を発表している。主な書籍に「救急医療の感染対策がわかる本」,「知って防ぐ!耐性菌 ESBL産生菌・MRSA・MDRP」(ヴァン メディカル刊)など。

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