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2021.03.30 病原体

新生児集中治療室(NICU)における感染症と感染対策の現状 著者:森岡 一朗

 

出生後早期の新生児の特殊性

新生児は、小児や成人では備わっている常在細菌叢を有さずに出生する。すなわち、無菌の状態で出生する。特に早産児は免疫能が未熟であり、新生児集中治療室(NICU)などに入院すると正常な細菌叢が確立していないため、容易に耐性菌が定着する。異常な腸内細菌叢が形成されると、NICU入院中の壊死性腸炎や敗血症の発症だけでなく、アレルギー疾患や炎症性腸疾患などの遠隔期の健康障害の原因となる可能性が近年報告されている。

新生児感染症の特徴

早産児に高い感染症発症率

低在胎週数・低出生体重であればあるほど感染症の発症率が高い。

感染症の種類は敗血症と肺炎

感染症の種類は、敗血症(血流感染)、肺炎の発症頻度が高い。肺炎は人工呼吸器関連肺炎が多い。

減少している早発型感染症

新生児感染症といえば、生後72時間より前に発症するB群溶連菌(GBS)や大腸菌を原因とする早発型感染症のイメージが強い。しかし、出生前の妊婦のGBS保菌スクリーニングの普及と抗菌薬投与により減少している。

減少しない遅発型感染症

その一方、生後72時間以降に発症する遅発型感染症はまったく減少していない。NICU入院中に医療従事者の手指や環境などからの伝播、長期間の人工呼吸器や経皮中心静脈カテーテルの使用によりその発症頻度が増加する。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)をはじめとする耐性菌が起因菌となることも多い。

抗菌薬適正使用のジレンマ

新生児の敗血症は初期症状が乏しく、また、無呼吸、呼吸急迫、多呼吸、低血圧、体温の不安定といった臨床症状は、必ずしも敗血症に特異的な症状ではない。小児や成人で用いられる感染症のバイオマーカーの感度や特異度も十分ではない。また、早産児では、血液量が十分に採取できないことがあり、血液培養に使用する血液量が少なくなったり、1セットしか提出できない場合も多い。したがって、経験的に抗菌薬を使用すると必然的に抗菌薬の使用量が増える。しかしながら、抗菌薬適正使用を推進しすぎると、治療開始の遅れや選択した狭域抗菌薬の無効につながる。その結果、感染症の罹病期間の延長だけでなく、予後の悪化に直結する。適切なタイミングで、有効な抗菌薬を開始するための研究が今なお行われている。

まとめ

近年では、早産児の遅発型感染症の発症頻度が高く、その予防が重要である。成人や小児病棟とは異なるNICUという特殊な環境に合わせた医療関連感染(主に手指を介した交差感染、中心静脈カテーテル関連血流感染・呼吸器関連肺炎)の予防、保育器を含む医療機器・器具の消毒や取り扱い、NICU特有の細菌学的サーベイランスや抗菌薬適正使用が必要である。

著者プロフィール

森岡 一朗(もりおか いちろう)

日本大学医学部小児科学系小児科学分野 主任教授

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