70歳男性の気管支吸引痰(膿粘性)のグラム染色像です。多数の好中球と莢膜を有するグラム陽性の双球菌が多数みられますが、好中球の細菌貪食像は顕著ではありません。細菌培養で肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae:ストレプトコッカス・ニューモニエ)が検出されました。
肺炎球菌は厚い莢膜を有するランセット型双球菌で約90種の血清型があります。莢膜保有菌は食細胞の貪食作用に抵抗し、莢膜産生能と毒力は相関します。ニューモリジン(溶血毒)なども産生します。本菌は、健常者の上気道に5~20%常在し、市中発症の細菌性肺炎の起炎菌として最も多く、急性気管支炎や慢性気道感染症、髄膜炎、菌血症、心内膜炎、関節炎や耳鼻科領域感染症(中耳炎、乳様突起炎、副鼻腔炎)などを起こします。近年、ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)の増加がみられ、特に髄膜炎などで臨床的に問題になります。PRSPのβ-ラクタム系薬耐性機序は作用点であるペニシリン結合タンパク質(PBP)の変異によります。診断には、喀痰や髄液などの体液を用いたグラム染色が有用ですが、病巣からの肺炎球菌の分離培養・同定(肺炎でも血液培養を行う)で確定診断されます。イムノクロマト法を用いた迅速診断法(尿、髄液)も診断に役立ちます。
〔画像出典〕
斧 康雄ほか:Gram strain 1.感染と抗菌薬 10(1):1-2,2007