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2020.03.27 領域・分野別

マスターしたい感染経路別予防策 ②飛沫予防策 著者:矢野 邦夫

 

飛沫予防策は患者が咳やくしゃみした時に口や鼻から飛び散る飛沫が周囲の人の呼吸器や粘膜に接触して病原体が伝播するのを防ぐための感染対策です。飛沫予防策が必要な病原体には、百日咳、インフルエンザウイルス、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)などがあります。これらの病原体は、長距離にわたって感染性を維持しないので、特別な空気の処理や換気は必要ありません。

飛沫予防策が必要な患者は個室に入室させます。もし、個室が足りなければ、その患者を同じ病原体を発症または保菌している別の患者と同じ病室に入室させます(コホーティング)。この場合、咳や喀痰の多い患者には個室入室を優先します。やむを得ず、飛沫予防策が必要な患者を他の疾患の患者が入院している病室に入室させる場合は、ベッドとベッドの間には1m以上の空間的距離をおくことや患者と患者の濃厚接触を避けるために、ベッド間にカーテンを引くことが特に重要です。免疫不全の患者や手術直前の患者のように、不運にも感染してしまった場合に重大な結末となる可能性のある患者が入院している病室には、飛沫感染する感染症の患者を同室させません。

飛沫予防策では病室入室時にはサージカルマスクを着用しますが、N95マスクは必要ありません。サージカルマスクを装着している医療従事者の一部が鼻を出していることがありますが、このような装着法は適切ではありません。サージカルマスクは口と鼻を覆うことが大切であり、ワイアー部分を鼻の形状に合わせて折り曲げ、マスク本体を上下に十分にのばして顎まで覆うようにして着用します。マスクのフィルタ部分を空気が通過することによって、空気流内の細菌や微粒子が除去されます。そのため、マスクが濡れてしまうとフィルタの通気が悪くなり、マスクの周辺から空気が流れこんでしまいます。サージカルマスクは濡れたら迅速に交換します。

患者ケアを終えて、病室から退室する時にサージカルマスクを取り外しますが、この時マスクの表面を手指で触れて、付着している病原体で手指を汚染させないようにします。マスクを取り外す時には耳掛けを持って取り外します。取り外した後の手指衛生も必ず実施します。

患者は可能な限り病室から出ないようにしますが、CTのようにやむをえず病室外に搬送しなければならない患者は、患者が耐えられるならばサージカルマスクを着用して咳エチケットを行います。

著者プロフィール

矢野 邦夫(やの くにお)

浜松医療センター 院長補佐 兼 感染症内科部長 兼 衛生管理室長

インフェクションコントロールドクター,日本感染症学会専門医・指導医。感染制御の専門家として多くの著書・論文を発表している。主な書籍に「救急医療の感染対策がわかる本」,「知って防ぐ!耐性菌 ESBL産生菌・MRSA・MDRP」(ヴァン メディカル刊)など。

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