PRSPは「ペニシリン耐性肺炎球菌(penicillin resistant Streptococcus pneumoniae)」の略語です。PRSPと言うからには、肺炎球菌のペニシリン感受性が低下していることになりますが、「髄膜炎」と「髄膜炎以外の感染症」の場合ではその定義が異なっています。
もともと、肺炎球菌の耐性の定義は、髄膜炎を対象としており、髄液中の薬剤濃度に関連したものでした。髄液での薬剤濃度は、血漿での濃度や肺胞での濃度(血漿での濃度に強く影響される)と比較すると著しく低いことが知られています。そのため、髄液での濃度では耐性の肺炎球菌であっても中耳炎、副鼻腔炎、肺炎ならば感受性を示し、臨床現場ではペニシリンが使用されていました。すなわち、PRSPによる感染症にペニシリンが有効であるといった矛盾がありました。そのため、2008年に米国の臨床・検査標準協会(CLSI:Clinical & Laboratory Standards Institute)はPRSPの定義を変更し、髄膜炎ではペニシリンの感受性が「MIC≧0.12μg/mL」、髄膜炎以外の感染症では「MIC≧8μg/mL」としました。これによって、髄膜炎以外の感染症では、これまでPRSPと定義されていたものも、ペニシリンの高用量で対応できることになりました。
肺炎球菌は急性中耳炎、急性鼻副鼻腔炎、市中肺炎などを引き起こしますが、インフルエンザ罹患後の患者、アルコール中毒患者、喫煙者、慢性閉塞性肺疾患や喘息の患者、脾臓機能低下もしくは脾臓摘出術の患者、免疫不全患者においては「侵襲性肺炎球菌感染症」を引き起こすことがあります。侵襲性肺炎球菌感染症とは本来は病原体が存在しない体の部分(血液や髄液など)に病原体が侵入した状況であり、髄膜炎、菌血症、菌血症を伴う肺炎のことです。侵襲性肺炎球菌感染症は感染症法の全数報告対象(5類感染症)であり、診断した医師は7日以内に最寄りの保健所に届け出ます。
肺炎球菌はヒトの鼻咽頭に住み着いています。飛沫によってヒトからヒトに伝播します。保菌率は集団や状況で左右されます。小児のいない成人ではわずか5~10%が保菌しているに過ぎませんが、学校では25~50%の人が保菌しています。米国の軍事施設では隊員の50~60%も保菌しています。保菌期間は様々であり、成人では4~6週間程度ですが、小児は成人よりも長期に保菌しています。
肺炎球菌は病原因子の一つである莢膜の抗原性の違いにより93種以上の血清型に分類されています。その中で特に病原性の強い血清型に対するワクチンが使用でき、それには23価肺炎球菌莢膜多糖体ワクチンと13価肺炎球菌結合型ワクチンがあります。それぞれ、接種できる年齢が限られています。