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2020.03.27 領域・分野別

今さら聞けない! 標準予防策 ⑧安全な注射手技 著者:矢野 邦夫

 

病院では、「患者に注射をする」という医療行為が頻回に実施されています。その時、同じ注射針や注射器が複数の患者で使用されれば、それらに付着した血液媒介病原体が患者から患者に伝播する可能性があります。また、数回量バイアルや溶液容器(生食バッグなど)に別の患者に使用した注射針が刺入されれば、それらは血液媒介病原体によって汚染され、それを注射することによって血液媒介病原体が患者の体内に入り込んでしまいます。実際、米国の外来医療施設において、「複数の患者に静注用薬剤を投与する時に同じ注射針や注射器を使用した」「数回量バイアルや溶液容器(生食バッグなど)に使用済み針を再挿入した」ということが原因となって、B型肝炎およびC型肝炎の4件のアウトブレイクが発生しました。このような感染を防ぐために、各々の注射には「滅菌の単回使用の使い捨て注射針および注射器を用いる」「注射器材および薬剤の汚染を防ぐ」が実施されなければなりません。

どうして、このような血液汚染が発生するのでしょうか? それは、医療従事者の一部が感染対策および無菌テクニックの基本原則を知らない、理解していない、遵守しないからです。そのようなことによってアウトブレイクが引き起こされているのです。医療従事者であれば、「同じ注射針を複数の患者に使用してはいけない」ということは理解しています。しかし、針は交換するが注射器は交換しないという医療行為がなされてしまうことがあります。これは「血液が注射器まで逆流しないようにすれば、針の交換だけで安全であろう」という誤った認識を持っているからです。確かに、針の中の血液が注射器まで逆流しなければ、注射器のなかの溶液が汚染することはありません。しかし、ごく微量の血液による汚染は眼で確認することはできません。一度や二度の行為であれば、血液が注射器まで逆流しないように十分に気を付けることによって、汚染することを避けることができるかもしれません。しかし、そのような行為を日常的に何十回も実施していくうちに、血液が注射器に逆流する事例が発生することでしょう。さらに、すべての医療従事者が日常的に「針は交換するが、注射器は交換しない」という医療行為を継続すれば、そのなかの数件で、血液によって注射器の中の溶液は汚染されてしまいます。そして、そのような溶液を注射することによって、患者が感染するのです。やはり、注射針と注射器は使用後は同時に廃棄されることが大切です。

著者プロフィール

矢野 邦夫(やの くにお)

浜松医療センター 院長補佐 兼 感染症内科部長 兼 衛生管理室長

インフェクションコントロールドクター,日本感染症学会専門医・指導医。感染制御の専門家として多くの著書・論文を発表している。主な書籍に「救急医療の感染対策がわかる本」,「知って防ぐ!耐性菌 ESBL産生菌・MRSA・MDRP」(ヴァン メディカル刊)など。

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自治医科大学附属病院 感染制御部長,准教授,病院長補佐,患者サポートセンター長(兼任),感染症科(兼任)科長,総合診療内科(兼任)副科長,栃木地域感染制御コンソーティアム TRIC’K 代表世話人 森澤雄司 編
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