新型コロナウイルス感染症では、検査がその後の方針の鍵を握ります。PCR検査(正確には核酸検査)、抗原検査、抗体検査とありますが、なんといってもPCR検査が一気に有名となりました。しかしながら、検査については誤解も含めて様々な混乱があり、感染症と検査の専門医を持つ立場としても何とか収拾したいところですが、解決していくにはまだまだ時間がかかりそうです。
PCR検査とは、ウイルスが持つ遺伝子を増やす試薬を使って、最終的に増えたかどうかで判定する検査です。1回で2倍に増える化学反応を繰り返しますので、最初に1個のウイルス遺伝子があれば、化学反応を40回繰り返すと最終的には2の40乗個に増えます(理論上の話で実際はここまで増えません)。驚くほどに増やすので、他の検査よりもわずかなウイルスを見つけやすくなっています。
つまり、ウイルス遺伝子さえ反応チューブの中にあれば陽性になるのですが、ウイルスが生きていても死んでいても関係ありません。死んだウイルスでは感染症は起こせませんので、陽性者が新型コロナ感染症者だと100%言い切ることができません。特に治りかけの人では、元気なのにPCR検査は陽性ということがよくあります。PCR検査が陰性の場合にも注意が必要で、検査用のサンプルがうまくウイルスを回収できていなかった可能性や、発症前でウイルスが少ないタイミングだったということもあります。つまり、検査の結果を見て、状態や状況も踏まえて医師の解釈が大切となってくるのです。PCR検査自体が持つ意味は、陽性の場合は「検体中に検出できる量のウイルスが含まれていた」で、陰性の場合は「検体中に検出できる量のウイルスが含まれていなかった」になります。当然、PCR検査結果と医師の解釈でミスマッチになることがあり、それを「偽陽性」、「偽陰性」と言っていて、決して検査結果の間違いを意味するものではありません。
(著者:富山大学学術研究部医学系微生物学講座 教授 森永 芳智)