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2020.07.14 病原体

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)にアビガンは効かないのでしょうか? 臨床試験結果を正しく解釈しましょう。 著者:渡辺 彰

 

先日、アビガンの特定臨床研究(1)を統括している藤田医科大学から「同薬を投与されたCOVID-19の患者では、解熱の傾向はあるがウイルス消失などの効果は確認できなかった」という報告がありました。この研究では、3月から国内47医療機関でSARS-CoV-2陽性の患者計69人を、①研究参加初日から10日間同薬を使う36人と、②初日からではなく6~15日目に同薬を使う33人に分け、投与開始6日目までのウイルス消失率や37.5℃未満になるまでの時間を比較しています。ウイルス消失率は①対②で67%対56%、平均解熱時間が同じく2.1日対3.2日であり、統計的な差はないが重症化した例や死亡例はなかったと報告しています。アビガンの有効性は本当に期待できないのでしょうか? 検討症例数が少ないだけでなく、ウイルスの消長(有無)をPCR法で評価すると死滅したウイルスをも拾ってしまうので正確とは言えないなど、研究の方法に疑問があります。

さらに研究当時は、COVID-19を疑う症状があってもPCR検査がすぐには行えず、確定診断が得られるのは発症から概ね4~6日目、あるいはそれ以上という状況が続いていました。それもあって、この研究では発症から10日目までは組み入れを可能としていましたが、これも問題です。アビガンの抗ウイルス効果が発揮できるのは発症後何日目までなのか? が分かっていないからです。

インフルエンザウイルス感染では、ノイラミニダーゼ阻害薬の効果は発症後48時間、作用機序の異なるアビガンは発症後96時間(マウス感染実験)を過ぎると効果が低下し始めます(2)が、COVID-19ではまだ何もわかっていないのです。でも、発症後1週間~10日の時期に強い効果を期待できるでしょうか? そこまで症状が遷延した例では、サイトカインストームや免疫再構築が起っている可能性があり、抗ウイルス薬以外にステロイド薬を含めた免疫抑制薬の投与を考慮すべき時期なのです。

以上より、現在の臨床研究のプロトコルではアビガンのみならず、他の抗ウイルス薬の実力の評価も困難です。インフルエンザの臨床評価のように正当な評価が可能な症例組み入れの条件を考えるべきであり、それを可能とする検査体制を整備すべきです。

(著者:東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授/公益財団法人宮城県結核予防会 理事長 渡辺 彰)

〔文献〕
(1)jRCTs041190120:SARS-CoV2感染無症状・軽症患者におけるウイルス量低減効果の検討を目的としたファビピラビルの多施設非盲検ランダム化臨床試験.
(2)Sidwell RW et al:Efficacy of Orally Administered T-705 on Lethal Avian Influenza A(H5N1)Virus Infection in Mice.Antimicrob Agents Chemother 51:845-851, 2007

著者プロフィール

渡辺 彰(わたなべ あきら)

東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授
公益財団法人宮城県結核予防会 理事長

日本感染症学会専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会指導医。東北大学加齢医学研究所抗感染症薬開発寄附研究部門教授・日本感染症学会理事・日本結核病学会理事長・日本化学療法学会理事長を歴任。2013年、結核医療とインフルエンザ医療に関する貢献で第65回保健文化賞,2017年、抗インフルエンザ薬の臨床開発とインフルエンザ感染症対策の推進への貢献で日本化学療法学会の第28回志賀 潔・秦 佐八郎記念賞を受賞している。

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