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2020.06.17 病原体

今季の東南アジア渡航者が注意するべき感染症 著者:清水 少一

 

現在、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行に伴い、世界中の国々で入国制限が行われている一方で、患者数が減少している国々では入国制限の緩和も検討されている。特に東南アジア諸国では世界的に見てCOVID-19の患者数が比較的に少なく、日本の患者数も一定以下に抑えられれば、この夏にも人々の往来が再開される可能性がある。本稿では入国制限緩和後の東南アジア渡航に際して注意するべき感染症について概観する。

以前には不要だった領事館の入国許可証や健康証明が必要な場合がある。取得条件や検査内容は、国や地域によって異なるだけでなく、突然変更されることがあるため、柔軟に対応できる余裕を持ちたい。また入国後そのまま指定施設で隔離されるなど、その国独自の規則があるため事前の調査が必要である(COVID-19の予防自体は他稿を参照されたい)。

ようやく入国できた後、我々を待っているのは、東南アジア感染症四天王-旅行者下痢症、デング熱、マラリア、狂犬病である(諸説あり)。

旅行者下痢症の原因は大腸菌が最多であるが、地域によってはこの大腸菌が普通に多剤耐性菌であったり、寄生虫が原因になったりすることもある。食事を介して感染する病原体は枚挙に暇がないため、衛生状態の悪い食事(おいしい食事は一見汚いレストランに多いのだが)は避け、飲料水はボトル入りを購入、“Boil it, Cook it, Peel it or Forget it.” (火を通していない食べ物や水、既に剥かれた果物を口にするな)の原則を忘れないようにしたい。

デング熱は、都市部を中心に雨季に流行する蚊(ヤブカ)媒介性のウイルス疾患である。この蚊は日中に吸血するため、日中の外出時にはDEETなどの昆虫忌避剤の使用が推奨される。ワクチンは上市されているものの、デング熱の既感染者が対象であり、未感染者が接種すると返って重症化のリスクを高めてしまう。

マラリアは蚊(ハマダラカ)媒介性の原虫疾患である。この蚊は主に夜間に吸血するため、夜間の外出やキャンプなどをする際には注意が必要である。マラリアは予防薬の内服で感染リスクを低減することができる。東南アジアのマラリアは都市部には少なくなっているものの、地方では前述のデング熱や日本脳炎、ダニが媒介するツツガムシ病といった疾患のリスクも高いため、忌避剤の使用だけでなく、自身の活動内容を検討するべきであろう。

狂犬病は文字通り犬、他にも猿やコウモリといった哺乳類によって媒介されるウイルス性疾患で、東南アジアでは都市部でもリスクがある。発症すればまず間違いなく死に至る一方で、ワクチンでほぼ完全に予防することが可能であり、基礎接種が終わっていれば咬傷時の措置を誤らない限り、ワクチンの効果は一生持続する。ただし、動物咬傷は破傷風や口腔内細菌等による感染症のリスクもあるため、狂犬病リスクの有無に関わらず早急な処置(傷口の洗浄)や医療機関の受診が必要である。

予防すべき疾患は他にもあり、渡航前にはトラベルクリニックなどの専門外来の受診を推奨する。行動範囲の医療機関や受診方法も確認しておきたい。また、渡航後に医療機関を受診する際には、海外渡航や現地での活動内容を是非申告していただきたい。

(著者:産業医科大学医学部免疫学・寄生虫学 講師 清水少一)

著者プロフィール

清水 少一(しみず しょういち)

産業医科大学医学部免疫学・寄生虫学 講師

医師、博士(医学)、感染症専門医・指導医、総合内科専門医、産業衛生専門医、国際旅行医学認定(CTH)、熱帯医学ディプロマ(DTM&H)。 2003年に産業医科大学医学部を卒業後、感染症内科医や専属産業医として勤務。タイ・マヒドン大学臨床熱帯医学修士課程留学を経て、2020年より現職。きれいな海に目がない。

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