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2020.04.25 病原体

【Q&A】最初は軽症で落ち着いていた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で、数日~1週間後に急速に悪化する例があるのはなぜでしょうか? 著者:渡辺 彰

 

2020年4月現在、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は世界的なパンデミックを呈し、多くの死亡が報告されています。その中には、最初は肺炎などもなくて軽症のために自宅隔離を指示されていた方が、7~10日後に突然、肺炎(多くが間質性陰影を呈する)を発症して重症化し、入院も間に合わずに死亡された方も見られます。突然の増悪では何が起こっているのでしょうか?

免疫抑制作用のあるトシリズマブやサリルマブなどが奏効したと考えられるCOVID-19の例がヒントになりそうです。宿主免疫を抑制する薬剤が病態を改善させているからです。2009年の新型インフルエンザの際にも指摘されたことですが、こうした例のかなりがサイトカインストームを起こしていたと思われます。本来、進入してきた病原体から身を守るシステムである免疫系が暴走し、各種の炎症性サイトカイン(IL-1、IL-6、TNF-αその他)が大量に産生され、肺や各種の臓器を損傷して重症化・死亡につながるのです(1, 2)。こうした免疫系の暴走は、各種の抗HIV薬による治療が奏効したAIDS例の安定期に突然起こることが知られてから理解が進み、現在ではAIDS以外の例をも含めて免疫再構築症候群として知られています。こうした例では、暴走し始めた免疫を抑える必要があるのです。

今回のCOVID-19でも、各種の治療に反応せずステロイド投与で初めて改善した例が報告されていますが、その使用に反対する意見もあり、考え方は相半ばしている状況です。2009年の新型インフルエンザの時と同じ状況ですが、これまでの報告のほとんどは観察研究に基づくものであり、予後の悪い重症例ほどステロイドの投与が行われる傾向があります。困難ですが、本来は背景を揃えた比較が必要と思われます。また、残念ながら、どういった方がこのような免疫の暴走を起こすのかはまだ分かっていません。1例ごとに経過を綿密に観察しながら、免疫抑制的な薬剤を投与する場合は早期開始が肝要と思われます。

〔文献〕
(1)Cao X:COVID-19: immunopathology and its implications for therapy. Nat Rev Immunol 2020
https://www.nature.com/articles/s41577-020-0308-3
(2)Shi Y et al:COVID-19 infection: the perspectives on immune responses. Cell Death Differ 27:1451-1454,2020
https://www.nature.com/articles/s41418-020-0530-3

著者プロフィール

渡辺 彰(わたなべ あきら)

東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授
公益財団法人宮城県結核予防会 理事長

日本感染症学会専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会指導医。東北大学加齢医学研究所抗感染症薬開発寄附研究部門教授・日本感染症学会理事・日本結核病学会理事長・日本化学療法学会理事長を歴任。2013年、結核医療とインフルエンザ医療に関する貢献で第65回保健文化賞,2017年、抗インフルエンザ薬の臨床開発とインフルエンザ感染症対策の推進への貢献で日本化学療法学会の第28回志賀 潔・秦 佐八郎記念賞を受賞している。

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編集:東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授 渡辺 彰
   帝京大学医学部微生物学講座 主任教授 斧 康雄
   国立病院機構東京病院 呼吸器センター部長 永井 英明


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