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2022.04.09 病原体

新型コロナ新変異株 デルタクロン株(Deltacron)XD, XFとは? 著者:坂口 剛正

 

キプロス大学のコストリキス教授によって、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のデルタ株とオミクロン株のキメラウイルス「デルタクロン株」が報告されました。実験室汚染による間違いである可能性も疑われましたが、フランスのパスツール研究所でも存在が確認されました。2022年1月はじめからフランス、デンマーク、オランダなどで見つかっています。世界保健機関(WHO)によってXDと名付けられました。

デルタクロン株と呼ばれるウイルスは、デルタ株GK/AY.4とオミクロン株GRA/BA.1が自然界で遺伝子組換えを起こしたウイルスです。一本鎖プラス鎖RNAをゲノムにもつコロナウイルスは自然界でこのような組換えを起こすことが知られています。推定される機構として、ひとつの細胞に2つ異なるウイルスが同時に感染して、細胞内でウイルス遺伝子が複製されるときに、RNAポリメラーゼが鋳型を途中で乗り換えることが考えられます。

デルタクロン株XDではS遺伝子の中で組換えが起こっていて、Sタンパク質のN末端から約160アミノ酸の領域がデルタ株に由来し、それ以降はオミクロン株に由来することがわかっています。したがって、受容体結合ドメインおよび膜融合に関わる領域はほとんど全てオミクロン株に由来しています。N末端のデルタ株に由来する領域は、Sタンパク質表面に露出していて感染のために補助的に働いていると推測されます。同様に組換えを起こした別系統のデルタクロン株XFも知られており、イギリスで広がっています。

問題はデルタクロン株がこれまでの株に比べて感染しやすいかどうかです。これまで伝播力が強い変異株が出現しては、世界的に流行するということを繰り返してきました。一方で、伝播力が強くなければ、それほど問題にはならないはずです。さて、デルタクロン株はどうでしょうか。現在までのところ、世界中に広がっている、あるいは病原性が高いという情報はないようです。

※2022年4月9日更新

(著者:広島大学大学院医系科学研究科ウイルス学 教授 坂口剛正)

著者プロフィール

坂口 剛正(さかぐち たけまさ)

広島大学大学院医系科学研究科ウイルス学 教授

2009年より現職。日本ウイルス学会評議員、中国四国ウイルス研究会代表幹事、広島県新型コロナウイルス感染症対策専門員会議委員、広島市感染症対策協議会副委員長、AMED新興・再興感染症基盤創生事業プログラム・オフィサー。35年にわたり、主にインフルエンザウイルスなどのRNAウイルスの基礎的な研究をはじめ、消毒剤や抗ウイルス薬の応用までを研究している。現在は新型コロナウイルス研究を行っている。

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