MSD社のラゲブリオ(モルヌピラビル)とファイザー社のパキロビッド(ニルマトレルビル/リトナビル)に続いて日本の塩野義製薬(株)のS-217622の臨床開発が進んでいます。本薬は、モルヌピラビルがRNAポリメラーゼを阻害するのとは異なり、ニルマトレルビルと同様に新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の増殖に必須な3CLプロテアーゼを阻害します。12歳以上で70歳未満の日本人を対象に、無症状・軽症・中等症のCOVID-19感染者に対する臨床第Ⅱ/Ⅲ相試験が行われており、第一段階の成績が2月7日の同社の説明会で報告されました(1)。
この試験では、プラセボ投与例を対照群として同薬を1日1回、5日間経口投与し(低用量群および高用量群)、感染性ウイルス量の指標であるウイルス力価および検体中のウイルスRNA(死滅ウイルスゲノムの断片を含む)の量を経時的に測定しました。ウイルス力価が陰性(<0.8 log10[TCID50/mL])になるまでの中央値は、プラセボ群に対して48.4~49.8時間短く、患者周囲へのウイルスの伝播・拡散も強く抑えられそうです。Day4(3回投与後)のウイルスRNA量は、両群ともプラセボ群に比し1/10以下に大きく減少する(1)など高い抗ウイルス効果です。
各々の臨床試験の例数や測定条件は少し異なると思いますが、本試験のDay4におけるウイルスRNA量の減少は、モルヌピラビルのDay5の減少(2)およびニルマトレルビルのDay5の減少(3)より大きく、治療薬として有望と思われます。また、VeroE6T細胞を用いて武漢株と各種変異株に対する本薬の抗ウイルス活性を測定していますが、武漢株とアルファ株、ベータ株、ガンマ株、デルタ株及びオミクロン株に対するEC50(μM)がいずれもほとんど同じ値であり(1)、Sたんぱく質の変異の有無や種類にかかわらず本薬が幅広い株に活性を示すことが分かります。変異株の変異部位として注目されているSたんぱく質ではなく、SARS-CoV-2の3CLプロテアーゼに本薬が作用するためです。
この試験では、ほぼすべての有害事象および副作用は軽度とのことです。臨床症状の改善もプラセボ群に比し優れており、重症化した例はプラセボ群の14例中2例に対し、本薬投与の25例ではゼロでしたが、試験の症例数が積み増された時点で正式な成績が発表される見込みです。最初からCOVID-19の治療を目的に開発されている国産の経口コロナ薬の将来性が期待されるものであり、今後の臨床試験の進捗と共に早い承認が望まれます。
(著者:東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授/公益財団法人宮城県結核予防会 理事長 渡辺 彰)
〔文献〕
(1)塩野義製薬株式会社:COVID-19治療薬「S-217622」に関する説明会 – Phase2/3試験 Phase 2a partの結果速報 -. (2022年2月7日)https://www.shionogi.com/content/dam/shionogi/jp/investors/ir-library/presentation-materials/fy2021/20220207_3.pdf
(2)Fischer W et al: Molnupiravir, an Oral Antiviral Treatment for COVID-19. medRxiv preprint doi: https://doi.org/10.1101/2021.06.17.21258639 (June 17, 2021)
(3)Pfizer inc.: Analyst and investor call to discuss the first COVID-19 comprehensive approach: Pfizer-BioNTech vaccine and Pfizer’s novel oral antiviral treatment candidate. (Dec 17, 2021) https://s28.q4cdn.com/781576035/files/doc_presentation/2021/12/17/COVID-Analyst-and-Investor-Call-deck_FINAL.pdf (look at page 51 of the 79 pages)