新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異株のオミクロン株による第6波が始まりました。感染力が驚異的に強く、沖縄などでは連日倍々の感染者数です。一部では緩和し始めたものの、「オミクロン株感染者は全員入院」などの基準を感染の実態にさらに合わせていかないことには、官製の医療ひっ迫が起こりかねません。が、オミクロン株の実態が分かり始めました。2021年12月末にオミクロン株の割合が90%を超えた沖縄県で2022年1月5日に開催された新型コロナに関する専門家会議の報告です(1)。
2022年1月1日までの1か月間に解析可能だった50例の年齢分布は、20~30代と40~50代が多いものの、10歳未満から80代までと幅広く、症状があったのは50例中48例でした。発熱が36例、咳29例、全身倦怠感25例、咽頭痛22例の順で多く、新型コロナで多い嗅覚・味覚障害は1例のみ、肺炎の例や重症の例はなかったとのことです。なお、ワクチン接種完了者が66%とのことです。オミクロン株では、ヒトの気管支組織に感染するウイルス量がデルタ株に比べて70倍以上高く、しかも感染後の早期からウイルス量が多い一方、肺組織へ感染するウイルス量はデルタ株に比べて1/10以下という報告(2)に符号するように、気道感染がもっぱらであって肺炎などの重症例は少ないのが実態と言えます。
会議の座長の藤田次郎・琉球大学教授は「感覚としては(デルタ株とは)別の病気で、インフルエンザに近い」としており、委員からは「国の緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の判断で使用する病床使用率等の指標がオミクロン株の実態と合わない」との発言もありました(1)。確かに、これらの基準はデルタ株を前提としており、軽症例がほとんどのオミクロン株では「無用」な入院例の激増によって「無用」な医療ひっ迫が起こりかねません。早急に是正すべきです。
モルヌピラビルに続いてパクスロビドが承認される見込みの経口コロナ治療薬の供給を充実させ、現在の政府保有から一般薬としてフレキシブルに処方できる体制が必要です。また、これまでは抗原量(≒排出されるウイルスの量)が少ない(3)ために抗原検査の精度がなかなか上がりませんでしたが、オミクロン株ではウイルス量が格段に多く(2)、インフルエンザに近くなりましたから迅速診断キットの充実も図られるはずです。ワクチン接種に加えて診断と治療が充実してくればコロナ禍からの出口も近いと思われます。
(著者:東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授/公益財団法人宮城県結核予防会 理事長 渡辺 彰)
〔文献〕
(1)安田朋起:オミクロン株「インフルに近い」との指摘も 沖縄でコロナ専門家会議.朝日新聞DIGITAL、2022年1月6日
https://www.asahi.com/articles/ASQ1653Y8Q16TIPE008.html
(2)香港大學李嘉誠醫學院:HKUMed finds Omicron SARS-CoV-2 can infect faster and better than Delta in human bronchus but with less severe infection in lung.
https://www.med.hku.hk/en/news/press/20211215-omicron-sars-cov-2-infection
(3)Kim KS et al:A quantitative model used to compare within-host SARS-CoV-2, MERS-CoV, and SARS-CoV dynamics provides insights into the pathogenesis and treatment of SARS-CoV-2. PLOS Biol 19(3): e3001128. Mar 22, 2021
https://doi.org/10.1371/journal.pbio.3001128