新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の新しい変異株であるオミクロン株が猛威を振るい始め、日本では第6波になりそうです。これまでのデルタ株などの変異株と比べて感染力が高い一方で、まだ断定は出来ませんが、重症化や入院のリスクが低いとも言われます。そういった性質はなぜ、どのようにして生まれたのでしょうか? 以下、幾つかの報告から考察しますが、いずれも科学報道や査読前の論文なので注意が必要であり、あくまでも仮説の段階における考察であることをあらかじめお断りいたします。
オミクロン株では、コロナウイルスが感染する際の武器であるスパイクたんぱく質に起こったアミノ酸変異が、これまでの変異株より格段に多い30種類以上と言われています。その結果と思われますが、ヒトの受容体であるACE2(アンジオテンシン変換酵素2)への結合能力が、初期のコロナ株やデルタ株より格段に高いようだという報告(1)があります。オミクロン株の実効再生産数(1人の感染者が何人に感染を拡大するか)はデルタ株の2.0~4.2倍高いという京都大学理論疫学の西浦らの分析もあります。
さらにオミクロン株では、ヒトの気管支組織に感染するウイルス量がデルタ株に比べて70倍以上高く、しかも感染後の早期からウイルス量が多い一方、肺組織へ感染するウイルス量はデルタ株に比べて1/10以下という報告(2)があります。オミクロン株以前に比べて肺炎などを併発する重症例が少なく、入院や重症化のリスクが小さいようだという報告を裏付けるものと思われます。
オミクロン株がこういう性質をどのように獲得したのか興味がありますが、「オミクロン株は通常の風邪ウイルスなどが持つ遺伝子配列の一部を取り込んだ」という査読前の論文(3)があります。この遺伝子配列は、風邪ウイルスを含む多くのウイルスや、ヒトのゲノム(全遺伝情報)にも含まれるため、オミクロン株はヒトの免疫からの攻撃を免れやすくなったというものです。また、通常の風邪ウイルスであるコロナウイルスのHCoV-229Eや多くのHIV(エイズウイルス)もこの遺伝子配列を持っているとのことです。
オミクロン株は、これまでの変異株より病原性が低くなった一方で感染性は高くなったわけですが、今後もさらにその傾向を強めた変異株が繰り返し出現する可能性があります。それを反復しながら、より普通の風邪ウイルスに近付いていくのではないでしょうか。
(著者:東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授/公益財団法人宮城県結核予防会 理事長 渡辺 彰)
〔文献〕
(1)Morteni M:Preliminary laboratory data hint at what makes Omicron the most superspreading variant yet. https://www.statnews.com/2021/12/17/preliminary-laboratory-data-hint-at-what-makes-omicron-the-most-superspreading-variant-yet/
(2)香港大學李嘉誠醫学院:HKUMed finds Omicron SARS-CoV-2 can infect faster and better than Delta in human bronchus but with less severe infection in lung. https://www.med.hku.hk/en/news/press/20211215-omicron-sars-cov-2-infection
(3)Venkatakrishnan AJ et al:Omicron variant of SARS-CoV-2 harbors a unique insertion mutation of putative viral or human genomic origin. https://www.reddit.com/r/COVID19/comments/r8bmie/omicron_variant_of_sarscov2_harbors_a_unique/