2019年末に突然現れた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、約40年間、呼吸器専門医、および感染症専門医として勤務してきた筆者に多くの示唆を与えてくれた。専門医の役割は、COVID-19と戦うことに加え、その病態の解明に寄与することである。
COVID-19肺炎の画像所見の経過は、特発性間質性肺炎に類似する所見を呈する(図1)1)。
自験例4症例において、症例1(A)、および症例2(B)は器質化肺炎に類似する画像所見である。症例3(C)は非特異性間質性肺炎に類似する画像所見を呈している。症例4(D)は器質化肺炎、または慢性好酸球性肺炎の画像所見に類似する。なぜ同じ病原体(SARS-CoV-2)でありながら、その画像所見は様々な間質性肺炎のパターンを示すのであろうか。
COVID-19の病原ウイルスであるSARS-CoV-2は肺胞II型上皮細胞の表面に発現するangiotensin converting enzyme 2(ACE2)を受容体としている。このためCOVID-19肺炎の重症化機序は、II型上皮細胞傷害の程度による。実際に、acute respiratory distress syndrome(ARDS、急性呼吸窮迫症候群)、またはacute interstitial pneumonia(AIP、急性間質性肺炎)の病理所見であるdiffuse alveolar damageにおいて形成される硝子膜の成分は肺胞上皮細胞の死骸であることが明らかになっている。間質性肺炎の疾患活動性のマーカーとして、II型上皮細胞の産生するKL-6が臨床応用されているが、実際にCOVID-19肺炎において、KL-6が上昇し、さらには予後と関連することが示唆されている。これらの事実はCOVID-19肺炎の病態に肺胞上皮細胞傷害(アポトーシスも含め)が深く関与していることを示すものである。
SARS-CoV-2の受容体がII型上皮細胞のACE2であり、かつCOVID-19肺炎の画像所見が特発性間質性肺炎に類似することは、特発性間質性肺炎の「特発性」を取る大きなヒントとなる。またウイルス感染症は細胞内抗原を露出することで、二次的に自己免疫性疾患を惹起することも知られており、膠原病関連の間質性肺疾患もウイルス感染症で説明しうる可能性がある。COVID-19について、まだまだ専門医は解明すべき点が多い。
〔文献〕
1) Fujita J:SARS-CoV-2 as a causative agent of idiopathic interstitial pneumonia and interstitial pneumonia associated with collagen vascular disorders. Respir Investig 58(6): 427-429, 2020