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2021.02.25 病原体

がん患者と新型コロナウイルス感染症 著者:冲中 敬二

 

がん患者は新型コロナウイルス感染症に感染しやすく、重症化しやすいと考えられています。しかし、同じがん患者でも現在治療中の人もいれば、すでに治療を終了して何年も経っている人もいます。すべてのがん患者に同じようなリスクがあるわけではありません。例えば、英国の1,700万人以上のデータ解析では、診断から1年未満の固形がん患者(約8万人)は死亡のリスクが約1.7倍高いことが示されています。その一方、診断から5年以上経過した人(約54万人)では一般の人と死亡のリスクは変わらないことが示されています。血液がんでも同様で、診断1年未満(約9千人弱)は2.8倍なのに対し、5年以降(約6.3万人)では1.6倍と報告されています(1)。

このように、リスクが特に高い人は一部の限られたがん患者と考えられ、診断から間もない患者の他、血液がん、肺がん患者もリスクが高い可能性が示されています。なお、一般の人と同じように、がん患者でも高齢や男性の人は重症化のリスクがあることが知られています。リスクの程度の評価にはがんだけでなく、一般的に知られているリスク(肥満、慢性腎臓病、糖尿病、高血圧など)も合わせて判断することが必要です。このようにリスクの高いがん患者へは、厚生労働省や米国疾病管理予防センターなどの国内外の機関や多くの専門家がワクチンの接種を推奨しています(2)。

上記の通り、がんと診断されて間もない人は新型コロナウイルス感染症の重症化リスクが懸念されます。それでも病院へ行ってがん治療を受ける必要があるでしょうか? 一部のがんでは4週間治療が遅れると6~13%程度がんによる死亡リスクが上昇する可能性が報告されています(3)。新型コロナウイルス感染症の流行時であっても、治療の継続の必要性については主治医としっかりと相談する必要があります。

なお、現時点(2021年2月)で得られる論文報告の多くは第1波の時の情報となります。今後報告される変異株などの新しい情報によって推奨が変わる可能性もあります。国立がん研究センター東病院のホームページでは、がん患者向けの新型コロナウイルス感染症情報(https://www.ncc.go.jp/jp/ncce/division/infectious_control/040/COVID-19.html#a07)を提供しています。今後の情報にも注目してください。

〔著者:国立がん研究センター東病院総合内科 医長・感染制御室 室長/国立がん研究センター中央病院造血幹細胞移植科(併任) 冲中 敬二〕

〔文献〕
(1)Williamson EJ et al:Factors associated with COVID-19-related death using OpenSAFELYNature 584(7821):430-436, 2020
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32640463/
(2)Ribas A et al:Priority COVID-19 Vaccination for Patients with Cancer while Vaccine Supply Is Limited. Cancer Discov 11(2):233-236, 2021
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33355178/
(3)Hanna TP et al:Mortality due to cancer treatment delay: systematic review and meta-analysis. BMJ 371:m4087, 2020
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33148535/

著者プロフィール

冲中 敬二(おきなか けいじ)

国立がん研究センター東病院総合内科 医長・感染制御室 室長
国立がん研究センター中央病院造血幹細胞移植科(併任)

2000年浜松医科大学卒業。所属学会:日本感染症学会、日本化学療法学会、日本医真菌学会、日本臨床微生物学会、日本環境感染学会、日本血液学会、日本造血細胞移植学会、日本内科学会。専門分野:免疫不全者の感染症。

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