力士は新型コロナウイルスに感染しやすく、感染した場合には重症化しやすいと思います。感染しやすい理由としては、力士たちは相撲部屋で集団生活し、ぶつかり稽古を行い、一緒に食事をすることがあげられます。ぶつかり稽古では激しく息を弾ませており、体と体が思いきりぶつかっています。そのような状況では口から大量の飛沫が発生し、容易に相手に届くことでしょう。このようなスポーツでのクラスターは様々なところで報告されています(1)。食事は、昼と夜の2回のちゃんこを複数の力士が一緒に食べます。食事の時にはマスクを取り外すのですが、このとき、お互いに談笑すれば、十分量の飛沫が飛び交う状態となります。これもまた、新型コロナウイルスが最も伝播しやすい状況と言えます。
もちろん、現在は相撲部屋においても、新型コロナウイルス対策が進み、そのような状況は改善されてきていることでしょう。しかし、「1m未満で、マスクの着用なく、15分以上会話をする」という濃厚接触者の定義を満たすような状況があれば、そこに感染者が入り込むと、クラスターは容易に発生することでしょう。
力士は、新型コロナウイルスに感染すると重症化する危険性は高いと考えられます。重症化因子には高齢、腎機能障害、糖尿病、悪性疾患、慢性腎臓病、慢性閉塞性肺疾患、固形臓器移植による免疫不全状態、肥満(BMI≧30)、重篤な心血管疾患(心不全、冠動脈疾患、心筋症)、喫煙などがあげられています。肥満については、「BMI=25~30」であっても、重症化因子になりうることが知られています。力士は肥満体形であり、糖尿病を持病としていることがあります。これらのリスク因子のなかの2つを持っていれば、さらに重症化する可能性は高いと考えるべきです。すなわち、重症肺炎や肺塞栓などの危険性があるということです。
それではどのようにすればよいのでしょうか? 各部屋のなかであってもマスクを着用するのがベストですが、実際には難しいでしょう。そのため、身体的距離として最低1mを常に空ける努力をします。そうすれば、飛沫が届かなくなり、身体同士の接触回数が減ります。もちろん、大声での会話や叫ぶことは禁忌です。食事については、ちゃんこは小分けして配膳し、可能な限り、時間差で食べるとよいでしょう。食事の時には話をせずに、壁を向いて食べるという方法もあります。もちろん、倦怠感、発熱、咳、味覚・嗅覚障害、息切れなどがみられれば、迅速に医療機関に受診すべきです。このように、力士は重症化のリスクが高いので、数日間の様子を見るというのは危険な対応と言えます。
(著者:浜松医療センター 院長補佐 兼 感染症内科部長 兼 衛生管理室長 矢野 邦夫)
〔文献〕
(1)Atrubin D et al:An outbreak of COVID-19 associated with a recreational hockey game — Florida, June 2020
https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/69/wr/pdfs/mm6941a4-H.pdf