新型コロナウイルスについての海外の報道をみていると、道路や歩道などに消毒液と思われる溶液を噴霧している画像が流れていることがあります。しかし、日本の行政がそのようなことを行っているところを見たことがありません。東京のように新型コロナウイルス感染者が多い地域でも環境への消毒液の噴霧は実施していません。どちらが正しいのでしょうか? これについて、WHOは「環境表面の洗浄と消毒」という記事を掲載しているので紹介します(1)。
確かに、新型コロナウイルスは手指の高頻度接触表面(スイッチなど)を介して伝播する可能性があります。そのため、そのような環境表面は、水と洗剤で洗浄してから、消毒液を塗布します。この時、環境表面を擦るように洗浄して、有機物を物理的に確実に除去することが大切です。消毒薬としてはアルコール液や次亜塩素酸ナトリウム溶液が用いられますが、これらの消毒薬を環境表面に曝露するために推奨される最短時間は1分間もしくはメーカーの推奨時間となります。
通りや歩道は、手指の高頻度接触表面ではないので、新型コロナウイルスの伝播経路とは見なされません。さらに、消毒薬はほこりや汚れによって不活性化されるので、そのような空間からすべての有機物を洗浄して取り除くことは不可能です。有機物が存在しなくても、病原菌を不活性化するために必要な消毒薬の接触時間の間、噴霧された消毒液がすべての表面を適切に覆うことはありません。
そのため、WHOは「新型コロナウイルスや他の病原体を除去または不活性化するために、屋外スペース(通り、歩道、市場など)に消毒液を噴霧することは推奨しない」と述べています。すなわち、日本の行政の対応が適切なのです。
〔文献〕
(1)WHO:Cleaning and disinfection of environmental surfaces.https://www.who.int/docs/default-source/coronaviruse/situation-reports/20200514-covid-19-sitrep-115.pdf?sfvrsn=3fce8d3c_4