感染対策のポータルサイト「感染対策Online」
運営会社: Van Medical
2020.03.26 病原体

この耐性菌言えますか?①MRSA 著者:矢野 邦夫

 

MRSAは「メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus)」の略語です。しかし、メチシリンのみに耐性ではありません。MRSAはメチシリンを含む多くの抗菌薬に耐性を獲得した黄色ブドウ球菌のことです。

MRSAには院内感染型と市中感染型があります。院内感染型MRSAは1980年代の後半より、国内各地の医療施設で問題となり始め、病院で分離される黄色ブドウ球菌の約半数がMRSAとなりました。しかし、最近は院内感染対策の向上によって、分離率が次第に低下してきています。院内感染型MRSAに感染している人のほとんどが何ら症状を呈しない保菌者ですが、抗がん剤治療や手術などによって抵抗力が低下すると重篤な感染症を発症することがあります。例えば、人工呼吸器にて治療されている患者の肺炎や心臓手術の後の縦隔炎などです。

市中感染型MRSAは1990年代以降に健康な成人や小児において問題となってきた病原体です。このMRSAは市中に存在している黄色ブドウ球菌が院内感染型MRSAとは異なる経緯でmecA耐性遺伝子を獲得して出現したものと考えられています。市中感染型MRSAは院内感染型MRSAとは臨床的、疫学的、細菌学的に異なっており、リスクファクター(手術や透析など)のない人において発症します。すなわち、健康人でも症状を呈することがあり、レスリングのような皮膚と皮膚が濃厚に接触するスポーツを楽しんでいる人々で伝播することが知られています。皮膚・軟部組織感染が最も多いのですが、壊死性肺炎、壊死性筋膜炎、重症骨髄炎、敗血症などの重症感染症がみられることもあります。

市中感染型MRSAにはいくつかのクローンがあり、米国ではUSA300というクローンが流行しています。USA300の大半は白血球溶解酵素(PVL:Panton-Valentine leukocidin)を産生しています。この酵素は非常に強い毒性を示します。低濃度ではアポトーシス、高濃度ではネクローシスを引き起こし、好中球などの白血球を破壊します。幸い、日本の市中感染型MRSAでPVLを産生しているのはわずか3〜5%程度です。日本で市中感染型MRSA感染症の重症例が少ないのはPVLを産生する強毒株が少ないことによるものかもしれません。

著者プロフィール

矢野 邦夫(やの くにお)

浜松医療センター 院長補佐 兼 感染症内科部長 兼 衛生管理室長

インフェクションコントロールドクター,日本感染症学会専門医・指導医。感染制御の専門家として多くの著書・論文を発表している。主な書籍に「救急医療の感染対策がわかる本」,「知って防ぐ!耐性菌 ESBL産生菌・MRSA・MDRP」(ヴァン メディカル刊)など。

一覧へ戻る
関連キーワード
関連書籍・雑誌
知って防ぐ!耐性菌 ESBL産生菌・MRSA・MDRP

◆耐性菌の蔓延・曝露を防ぐには,まず相手を知ることが重要です。
◆現在臨床現場で問題となっている主な耐性菌3つを取り上げ,感染対策マスターの著者が,これまで集積してきた知識を噛み砕いて,耐性菌の特性から治療法・感染対策の具体策・看護ケアのポイントまでわかりやすく解説します。
◆患者さんに接する機会が最も多い,看護師の方必携の一冊です。

浜松医療センター 副院長 兼 感染症内科長 兼 衛生管理室長 矢野邦夫 著
2014年2月刊

感染対策ICTジャーナル Vol.14 No.2 2019 特集:院内でも在宅でも カテーテル関連尿路感染症(CAUTI)の予防対策

編集:東北医科薬科大学医学部感染症学教室 特任教授 賀来 満夫
   東京女子医科大学医学部感染制御科 教授/同大学病院感染制御科 診療部長 満田 年宏
   山形大学医学部附属病院検査部 部長 病院教授・感染制御部 部長 森兼 啓太
   自治医科大学附属病院感染制御部長・感染症科(兼任)科長,自治医科大学感染免疫学 准教授 森澤 雄司


2019年4月刊

医療環境における多剤耐性菌管理のためのCDCガイドライン2006

世界中の感染対策の指針となるCDCガイドライン。
感染対策に精通する訳者が,独自の注釈を加え,ポイントをわかりやすく紹介!
感染対策必携の1冊!

公立大学法人横浜市立大学附属病院臨床検査部準教授 満田年宏 訳・著
2007年3月刊