病原体は「感染源→感染経路→宿主」と伝播していきます。これらのどこかに介入して、病原体の伝播を抑え込む努力が「感染対策」です。感染源への介入の例としては、咳エチケットがあります。インフルエンザや新型肺炎(COVID-19)の患者が咳やくしゃみをする時に、咳エチケットを遵守すれば、ウイルスの拡散を減らすことができます。感染経路への介入の例としては、医療従事者の手指消毒があります。医療従事者がメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)などの耐性菌に感染した患者をケアした後、そのまま別の患者をケアすれば、その手指に付着している耐性菌が患者から患者に伝播してしまいます。しかし、手指消毒をすればその伝播経路を遮断できます。インフルエンザ患者を個室に入室させて、飛沫予防策を実施したり、結核患者を陰圧の病室に入室させて、空気予防策をすれば感染経路の遮断となります。患者の口や鼻から飛び出す飛沫や飛沫核が医療従事者や面会者に伝播するということを防ぐことができるからです。宿主への介入の例としては、ワクチン接種があります。人々に麻疹・風疹・ムンプス・水痘のワクチンを接種して、抗体を獲得させれば、たとえ病原体に曝露しても、感染しにくくなります。
院内感染は急性期病院において発生することが多く、その対応として院内感染対策が発達してきました。しかし、医療の現場が急性期病院のみならず、他の医療現場(在宅医療、外来医療、長期医療施設など)へも拡大してきました。それに伴って、病原体に曝露したり感染が成立した場所が病院であるのか、長期医療施設や在宅であるのかを確定することが困難となってきたのです。このような状況を反映して、「院内感染」という用語は「医療関連感染」に取って代わられることになりました。その結果、感染対策についても、「院内感染対策」という用語よりも、「医療関連感染対策」が用いられるようになりました。