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2022.08.01 病原体

インフルエンザワクチン接種はアルツハイマー病予防にもなる?

著者:渡辺 彰

日本国内では本年6月以降、SARS-CoV-2による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の第7波が急拡大中です。新規感染者数が毎日のように更新されるなど、これまでで最大規模の感染拡大ですが、それに隠れるかのようにRSウイルス感染症や手足口病も増加しています。さらに、今秋から冬にはインフルエンザの3年ぶりの流行が懸念されています。日本感染症学会もA香港型の流行を予測しており、例年通りのインフルエンザ対策とともに、インフルエンザワクチンの接種を強く勧めています(1)。

最近、インフルエンザワクチンの接種がアルツハイマー病の発症リスクを下げるという興味ある報告(2)が出ました。マサチューセッツ総合病院のBukhbinderらが、2015年8月末までの6年間に認知症を発症しなかった65歳以上の高齢者を2019年8月末まで追跡した成績です。この期間内に1回以上インフルエンザワクチンを接種した93万5,887人と、各種条件をマッチさせた同数のワクチン未接種者との間でアルツハイマー病の発症を比較しました。平均年齢は73.7歳で、女性が56.9%を占めていました。

46ヵ月間(中央値)の追跡期間中にアルツハイマー病を発症したのは、ワクチン接種群で5.1%(4万7,889人)、未接種群は8.5%(7万9,630人)であり、発症は40%低下すると見込まれました。Bukhbinderらは、同ワクチン接種で免疫系が賦活化され、アルツハイマー病の原因たんぱく質を攻撃する、あるいは、同ワクチン接種がインフルエンザウイルスの脳へのダメージを抑えるのではないか? と考察しています。また、同ワクチン以外にも破傷風やジフテリア、肺炎球菌のワクチンも弱いながらアルツハイマー病やその他の認知症のリスクを低下させる報告があるとしています。

今回のCOVID-19の流行でも、帯状疱疹ワクチンの接種がCOVID-19の発症リスクを低下させるという報告があり(3,4)、結核菌に対するBCGワクチンにも同様の報告(5)があります。目的ではなかった病原微生物に対して発揮されるこのような免疫効果(=オフターゲット効果)は、今回の報告のように病原微生物以外に対しても見られるようであり、各種のワクチンを積極的に接種しておくことが感染症のみならず、各種疾病の予防につながりそうです。筆者は常々、成人と高齢者に今必要なワクチンは最低限、コロナワクチン、インフルエンザワクチン、肺炎球菌ワクチン、帯状疱疹ワクチンであるとして接種を勧めているところです。

(著者:東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授/公益財団法人宮城県結核予防会 理事長 渡辺 彰)

〔文献〕
(1)石田 直ほか:一般社団法人日本感染症学会 提言『2022-2023年シーズンのインフルエンザ対策について(一般の方々へ)』、2022年7月27日、https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/guidelines/teigen_ippan_220724.pdf
(2)Bukhbinder AS et al: Risk of Alzheimer’s disease following influenza vaccination: A claims-based cohort study using propensity score matching. J Alzheimer’s Dis.  2022 Jun 13. [Epub ahead of print] https://content.iospress.com/download/journal-of-alzheimers-disease/jad220361?id=journal-of-alzheimers-disease%2Fjad220361
(3)Bruxvoort J et al: Recombinant adjuvanted zoster vaccine and reduced risk of COVID-19 diagnosis and hospitalization in older adults. medRxiv preprint (posted Oct.3 2021) doi: https:/doi.org/10.1101/2021.10.01.21264400
(4)Merzon E et al: The association of previous vaccination with live-attenuated varicella zoster vaccine and COVID-19 positivity: An Israeli population-based study. Vaccines 10, 74. 2022.  https:/doi.org/10.3390/vaccines10010074
(5)Escobar LE et al: BCG vaccine protection from severe coronavirus disease 2019 (COVID-19).  PNAS 117(30):17720-17726, 2020

著者プロフィール

渡辺 彰(わたなべ あきら)

東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授
公益財団法人宮城県結核予防会 理事長

日本感染症学会専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会指導医。東北大学加齢医学研究所抗感染症薬開発寄附研究部門教授・日本感染症学会理事・日本結核病学会理事長・日本化学療法学会理事長を歴任。2013年、結核医療とインフルエンザ医療に関する貢献で第65回保健文化賞,2017年、抗インフルエンザ薬の臨床開発とインフルエンザ感染症対策の推進への貢献で日本化学療法学会の第28回志賀 潔・秦 佐八郎記念賞を受賞している。