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2021.10.27 領域・分野別

抗菌薬適正使用のグローバルな動き―感染炎症マーカー「CRP」の再認識 著者:渡辺 彰

 

2021年9月21日のBritish Medical Journal誌のオンライン版に、介護施設における感染症疑い患者の初診時にC反応性蛋白質(CRP)を測定すると安全裡に抗菌薬の投与量を減らせる、という論文(1)が掲載されました。CRPは、日本の感染症診療ではほぼ必須の炎症マーカーであり、ガイドラインその他にも挙げられていますが、海外ではあまり使われてこず、白血球やプロカルシトニンなどがよく使われています。

細菌感染症では、白血球に少し遅れてCRPが増え始めます。感染が起こると最初に動きだすマクロファージが産生するインターロイキン-6(IL-6)を介して肝臓が産生する蛋白質がCRPです。IL-6産生を介するので時間を要し、血中のCRPは感染後12時間程度で上昇し始め、ピークは2~3日後になります。抗菌薬治療によって感染症が改善し始めても、CRPがさらに上昇することもあります。

Boereら(1)は、下気道感染症が疑われたオランダの介護施設入居者を対象に、初診時のCRP測定により抗菌薬投与の是非を判断し、抗菌薬の処方を減らせるか、を検討しました。241例をCRP測定実施群(157例)と非実施の対照群(84例)に無作為に割付け、初診時の抗菌薬処方の有無を主な評価項目としています。

初診時に抗菌薬が処方された患者は、CRP測定実施群84例(53.5%)、対照群65例(82.3%)であり、有意差がありました。その後、3週間目の回復率や入院、および死亡を観察しましたが、いずれにおいても両群間に有意差はないことから、安全裡に抗菌薬の投与が減らせたと言えます。なお、抗菌薬の処方動向には担当医の違いやCRP以外の患者検査成績との相関はなかったということです。

日本の医療従事者にとってはほぼ当然の結果とも思われますが、この報告は、CRPを使うことで抗菌薬投与の節減を図り、ひいては医療費の節減、薬剤耐性菌の抑制も図れる、つまり抗菌薬適正使用を図れるであろうことに意義があると思われます。CRPに関しては、2010年以前の欧米でも前向きに評価する報告はありました(2,3)が、今回の論文のように2010年以降は、特に高齢者施設における感染症診療における有用性を検討した報告(4-7)が出始めています。

日本でよく使われていて、海外ではあまり使われてこなかった感染症関連のマーカー検査は他にも、β-D-グルカン、非結核性抗酸菌症(MAC)抗体価の測定法など有用なものがいくつかあり、海外でもようやく認識され始めましたが、日本の医療現場で日常的に使われてきた検査が有用であることを、あらためて教えられた思いです。

(著者:東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授/公益財団法人宮城県結核予防会 理事長 渡辺 彰)

〔文献〕
(1)Boere TM et al:Effect of C reactive protein point-of-care testing on antibiotic prescribing for lower respiratory tract infections in nursing home residents: cluster randomised controlled trial. Brit Med J 374:n2198, 2021, doi: 10.1136/bmj.n2198
(2)Lisboa T et al:C-reactive protein correlates with bacterial load and appropriate antibiotic therapy in suspected ventilator-associated pneumonia. Crit Care Med 36:166-171, 2008
(3)Cals JWL et al:Effect of point of care testing for C reactive protein and training in communication skills on antibiotic use in lower respiratory tract infections: cluster randomised trial. BMJ 338: b1374, 2009, doi:10.1136/bmj.b1374 pmid:19416992
(4)Nouvenne A et al:The association of serum procalcitonin and high-sensitivity C-reactive protein with pneumonia in elderly multimorbid patients with respiratory symptoms: retrospective cohort study. BMC Geriatrics 16: 16, 2016, doi:10.1186/s12877-016-0192-7
(5)Ticinesi A et al:C-reactive protein (CRP) measurement in geriatric patients hospitalized for acute infection. Eur J Intern Med 37:7-12, 2017,  doi:10.1016/j.ejim.2016.08.026
(6)Boere TM et al:Using point-of-care C-reactive protein to guide antibiotic prescribing for lower respiratory tract infections in elderly nursing home residents (UPCARE): study design of a cluster randomized controlled trial. BMC Health Serv Res 20: 149, 2020, doi:10.1186/s12913-020-5006-0
(7)Kuil SD et al:Sensitivity of C-reactive protein and procalcitonin measured by point-of-care tests to diagnose urinary tract infections in nursing home residents: A cross-sectional study. Clin Infect Dis, ciaa1709, 2020, doi:10.1093/cid/ciaa1709

著者プロフィール

渡辺 彰(わたなべ あきら)

東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授
公益財団法人宮城県結核予防会 理事長

日本感染症学会専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会指導医。東北大学加齢医学研究所抗感染症薬開発寄附研究部門教授・日本感染症学会理事・日本結核病学会理事長・日本化学療法学会理事長を歴任。2013年、結核医療とインフルエンザ医療に関する貢献で第65回保健文化賞,2017年、抗インフルエンザ薬の臨床開発とインフルエンザ感染症対策の推進への貢献で日本化学療法学会の第28回志賀 潔・秦 佐八郎記念賞を受賞している。

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編集:
東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授 渡辺 彰
帝京平成大学健康メデイカル学部 教授・副学長/帝京大学医学部 名誉教授 斧 康雄
国立病院機構東京病院感染症科部長 永井 英明


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