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2021.10.11 病原体

モルヌピラビルはゲームチェンジャーの第一弾! ―新型コロナウイルス感染症の治療薬を考える

著者:渡辺 彰

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療のゲームチェンジャー(≒切り札)は経口抗コロナウイルス薬であり、その早期投与です(1)。経口薬は早ければ年内中に緊急使用が承認される見込みですが、その一つであるモルヌピラビルの有望な臨床試験成績(2)がプレスリリースされました。

モルヌピラビルは、ファビピラビル(アビガン)と同じRNAポリメラーゼ阻害作用を有し、経口のインフルエンザ治療薬として開発中でしたが、2020年5月に米国メルク社と米国リッジバック・バイオセラピューティクス社がCOVID-19治療薬として開発を始めたものです。基礎的検討では、2002年に出現した重症急性呼吸器症候群のウイルス(SARS-CoV-1)や2012年に出現した中東呼吸器症候群(MERS)のウイルスにも活性が認められています。

モルヌピラビルの臨床第Ⅲ相試験(MOVe-OUT)は、我が国を含む世界の173施設で、発症後5日以内で重症度が軽度~中等度、かつ肥満、高齢、糖尿病、心疾患などのリスク因子を一つ以上有するCOVID-19患者を対象に、1,550例を目標にプラセボ対照で開始されました。モルヌピラビルは1日2回、計5日間の経口投与です。メルク社が2021年8月5日までの775例について中間解析をしたところ、プラセボ群(377例)では29日後までの入院が53例、死亡は8例であったのに対し、モルヌピラビル群(385例)では入院が28例、死亡はゼロ、と有意の差があり、有害事象は両群間で同程度であったとのことです(2)。なお、この発表はプレスリリースであり、査読を受けていないという点に注意が必要です。

メルク社はこの有意の結果を受けて既に新たな被験者の登録を停止しており、米国食品医薬品局(FDA)に緊急使用許可を申請する予定です。米国連邦政府も170万人分の購入契約を締結したとされ、早ければ年内にも使用が可能になると思われますし、メルク社の子会社であるMSD社を通じて我が国にも導入される見込みです。治療を要するCOVID-19患者で最も数が多い軽症例において、使用のハードルが低い経口薬の投与が広く普及すれば、重症例や死亡例を大きく減らすことができ、ひいては、現在のインフルエンザに近い診療形態が可能になってくると思われます。

(著者:東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授/公益財団法人宮城県結核予防会 理事長 渡辺 彰)

〔文献〕
(1)渡辺 彰:新型コロナ治療のゲームチェンジャー 開発中の有望5薬に注目する.感染対策Online 2021-09-27、https://www.kansentaisaku.jp/2021/09/3217/
(2)Merck.com: Merck and Ridgeback’s Investigational Oral Antiviral Molnupiravir Reduced the Risk of Hospitalization or Death by Approximately 50 Percent Compared to Placebo for Patients with Mild or Moderate COVID-19 in Positive Interim Analysis of Phase 3 Study. https://www.merck.com/news/merck-and-ridgebacks-investigational-oral-antiviral-molnupiravir-reduced-the-risk-of-hospitalization-or-death-by-approximately-50-percent-compared-to-placebo-for-patients-with-mild-or-moderat/

著者プロフィール

渡辺 彰(わたなべ あきら)

東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授
公益財団法人宮城県結核予防会 理事長

日本感染症学会専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会指導医。東北大学加齢医学研究所抗感染症薬開発寄附研究部門教授・日本感染症学会理事・日本結核病学会理事長・日本化学療法学会理事長を歴任。2013年、結核医療とインフルエンザ医療に関する貢献で第65回保健文化賞,2017年、抗インフルエンザ薬の臨床開発とインフルエンザ感染症対策の推進への貢献で日本化学療法学会の第28回志賀 潔・秦 佐八郎記念賞を受賞している。