我が国では毎日200万人に抗菌薬が投与され,その90%は経口抗菌薬である。またその経口抗菌薬の70%近くは開業医で処方されており,薬剤耐性菌(Antimicrobial Resistance:AMR)問題における開業医の関与は非常に大きい。一方で、開業医と病院外来医を比較すると、かぜ症候群に対する抗菌薬の処方行動には大差はなく、また各々の外来分離菌の10年間の変化率にも有意な差がないことから、外来AMR問題では開業医も病院外来医も同様の立場と考えるべきである。
適正使用で特に重要視されるのが、かぜ症候群での抗菌薬投与である。私の2016年の医師対象の調査では、かぜ症候群患者に“抗菌薬投与が10%以下”と少ない医師は60%であったが、具 芳明先生(現東京医科歯科大学教授)の2021年の調査結果では“処方率が減少した”医師が70%と10ポイント近く増加しており、直近5年間のAMR対策によって、臨床医には徐々に行動変容が表れている。しかしその一方で、患者サイドが抗菌薬処方を要求すると、押し切られて処方している医師が50%台で推移しているという側面も残っている。
このようにAMR対策では、医師のみならず患者への啓発もクローズアップされる。
私の患者1,200名へのアンケートと患者100名へのメッセージテストの結果からの患者への行動変容の処方箋は、主たる対象は30~40代の女性で、訴求ポイントは「不適切な抗菌薬使用は、体内に耐性菌を生み、将来の貴方の感染症治療のリスクになります」と表現できる。そして、広報としては医師からの直接説明が最も効果的であるが、その他にも母子手帳に記載する、薬袋に説明用チラシを入れるなどユニークな提案もある。
2021年の具先生の調査では、医師と患者共に抗菌薬適正使用の行動変容が確実に認められている。それを踏まえた上での今後の展望としては、まず2016年版に続く新しい『AMR対策アクションプラン』を作成することがある。また、2018年に設置された「小児抗菌薬適正使用支援加算」は、実施されて以降、小児科での抗菌薬投与のレセプト数減少の効果がみられている。やはり加算設定は外来臨床医には強いインセンティブとなり得ることから、この適正使用支援加算を時限的であっても内科や耳鼻科にも拡大することが望ましい。
世界保健機構(WHO)によれば、耐性菌によって世界中で毎年70万人が死亡しており、この耐性菌の脅威はますます高まっていく。開業医は直接的にその脅威を感じる機会は少ないが、それだけに処方権を持つ立場を自覚して、今後も適正使用に積極的に取り組むべきと考える。