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2021.07.05 病原体

子どもの新型コロナウイルス感染症は、インフルエンザより重症!

著者:渡辺 彰

アルファ株(英国型変異株)やデルタ株(インド型変異株)などの感染力が強い新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が我が国でも増加中です。それに伴い、以前は少なかった若年者の感染例が子どもを含めて増えています。子どもの重症度はどうなのでしょうか? 米国・欧州(フランス、ドイツ、スペイン)・韓国の実臨床データを解析し、インフルエンザ感染例と比較した結果が報告されています。

Duarte-Sallesら(1)は、2020年1~6月に前記の国々で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と診断された18歳未満の子ども242,158例(うち入院は9,769例)について、基礎疾患や臨床症状、入院例の30日予後と治療内容、特に肺炎や急性呼吸促拍症候群および川崎病類似の小児多系統炎症性症候群(MIS-C)の有無を解析し、それらを2017-18年の季節性インフルエンザの2,084,180例と比較しました。

子どものCOVID-19の入院率は0.3~1.3%であり、その基礎疾患で目立ったのは、神経発達障害、心疾患および悪性腫瘍でしたが、用いた15のデータベースにおける死亡はいずれも5例以下のため、30日死亡率は検出不可能とのことです。インフルエンザよりもCOVID-19で目立った症候は、呼吸困難、細気管支炎、嗅覚障害、消化管症状であり、鑑別診断に役立つとしています。COVID-19でにわかに注目されたMIS-Cは、米国で入院例の2~3%に見られましたが、米国以外からは報告がありませんでした。

入院例に対する治療では、未承認薬(ロピナビルやリトナビル、アジスロマイシン、ヒドロキシクロロキン、オセルタミビル)の投与はいずれも10%以下でした。代わりに、いわゆる補助療法が多く見られ、全身性ステロイド(6.8~7.6%)、ファモチジン(9.0~28.1%)および種々の抗血栓薬(アスピリン2.0~21.4%、ヘパリン2.2~18.1%、低分子ヘパリンのエノキサパリン2.8~14.8%)などが主でした。

まだCOVID-19の治療方針に一定の見解が定まっていなかった2020年前半の例の解析ですが、様々な治療が行われていたと共に、インフルエンザよりもCOVID-19では入院、低酸素血症、肺炎といった重症例が多く、COVID-19はインフルエンザより重症であるという結論です。新型コロナワクチンの子どもへの接種をどのように考えればよいのかについては、日米の小児科学会のガイドライン(2,3)などを参考にしながら検討すべきですが、今回の報告も大きな参考になりそうです。

(著者:東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授/公益財団法人宮城県結核予防会 理事長 渡辺 彰)

〔文献〕
(1)Duarte-Salles T et al: 30-day outcomes of children and adolescents with COVID-19: An international experience. Pediatrics 2021; doi:10.1542/peds.2020-042929(online ahead of print)
(2)公益社団法人日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会:新型コロナワクチン~子どもならびに子どもに接する成人への接種に対する考え方. www.jpeds.or.jp/uploads/files/20210616__corona.pdf
(3)Plotkin SA et al:Considering mandatory vaccination of children for COVID-19. Pediatrics 147: e2021050531, 2021

著者プロフィール

渡辺 彰(わたなべ あきら)

東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授
公益財団法人宮城県結核予防会 理事長

日本感染症学会専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会指導医。東北大学加齢医学研究所抗感染症薬開発寄附研究部門教授・日本感染症学会理事・日本結核病学会理事長・日本化学療法学会理事長を歴任。2013年、結核医療とインフルエンザ医療に関する貢献で第65回保健文化賞,2017年、抗インフルエンザ薬の臨床開発とインフルエンザ感染症対策の推進への貢献で日本化学療法学会の第28回志賀 潔・秦 佐八郎記念賞を受賞している。