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2021.06.25 病原体

夏到来! デング熱注意報!!

著者:清水 少一

2020年は新型コロナウイルス感染症(コロナ)がパンデミックを起こし、海外との往来が厳しく制限されました。それによって多くの輸入感染症(日本には常在しておらず、海外からの持ち込みがほとんどを占める感染症)が減少し、デング熱やジカウイルス感染症といった蚊によって媒介される輸入感染症も減少しました(デング熱:2019年 461人→2020年 43人、ジカウイルス感染症:2019年6人→2020年2人)。

これらの感染症は、ヤブカ属の蚊であるネッタイシマカやヒトスジシマカによって媒介されます。日本では北海道以外にヒトスジシマカ(黒と白のツートンカラーで“ヤブカ”と呼ばれている)が常在しており、実際に2014年以降、国内で媒介されたと考えられるデング熱の症例が報告されています。

デング熱はデングウイルスによる感染症で、世界で年間1億人の患者が発生しているとされます。ウイルスを持つ蚊に刺咬された後、3~8日間程度の潜伏期間を経て高熱・頭痛(目の奥の痛みが特徴的とされる)で発症し、消化器症状や皮疹を伴うこともあります。多くの場合は1週間以内に解熱して自然治癒しますが、出血やショックが出現し、重症デングと呼ばれる状態に陥ることがあります。抗ウイルス薬は存在せず、ワクチンは日本では一般的に流通してないため、防蚊対策が唯一現実的な対抗手段となります。

コロナ禍であっても、熱帯地域では相変わらずデング熱は流行しました。もちろん、コロナ予防に有効なマスクや手指衛生は蚊に対しては全く効果がありませんし、コロナ禍による外出自粛がかえって屋内での蚊の刺咬機会を増やした、という見方もあります。そこで気を付けたいのは、2021年に満を持して迎える東京オリンピック・パラリンピックです。日本の夏は多くの熱帯地域におけるデング熱流行時期に重なり、日本でもヒトスジシマカが多く発生します。流行地域から入国したデングウイルスを持つ人が、ヒトスジシマカを介してデング熱を広めてしまう危険性を考慮しておかなければなりません。デング熱の9割が不顕性感染であり、選手たちに実施される検査はあくまでコロナだけが対象です。しかも隔離期間も短縮となれば、デングウイルスを持ったまま蚊のいる屋外へ出る可能性もあります。オリンピックのパブリックビューイングが予定されていた代々木公園(とその周辺)は、2014年にそれまで70年間国内発生が確認されていなかったデング熱患者が108名出たため、熱帯医学の業界ではちょっと有名な場所です。その後もデング熱の国内感染例は各所で散発しています。その代々木公園では、パブリックビューイングの代わりにコロナワクチンの集団接種が予定されているといいます。会場の設置状況によっては虫除けが必要となるかもしれません。

(著者:産業医科大学医学部免疫学・寄生虫学 講師 清水 少一)

著者プロフィール

清水 少一(しみず しょういち)

産業医科大学医学部免疫学・寄生虫学 講師

医師、博士(医学)、感染症専門医・指導医、総合内科専門医、産業衛生専門医、国際旅行医学認定(CTH)、熱帯医学ディプロマ(DTM&H)。 2003年に産業医科大学医学部を卒業後、感染症内科医や専属産業医として勤務。タイ・マヒドン大学臨床熱帯医学修士課程留学を経て、2020年より現職。きれいな海に目がない。