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2021.05.21 病原体

思わずツッコミたい新型コロナ対策 無意味な抗菌コーティング

著者:矢野 邦夫

車内の抗菌コーティングを地下鉄会社などがアピールしています。また、企業や事務所内ほか、医療機関であるクリニック・歯科などでも、抗菌コーティングの効果や実施のアピールが見受けられます。抗菌コーティングは本当に有効なのでしょうか? 是非とも実施すべき感染対策なのでしょうか?

ここで米国環境保護庁(EPA:Environmental Protection Agency)がホームページで公開している内容を紹介しましょう。

■抗菌コート処理された製品は、人間に病気を引き起こすウイルスや細菌に対して効果的であると主張することはできません。これは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の制御には適していないことを意味します(1)。
■長期間にわたって微生物を減少または除菌できる製品は、手指の高頻度接触面でのウイルスへの潜在的な曝露を減らすのに役立つ可能性があります。しかし、EPAは、ウイルスに対する長期的な(例えば、数日から数週間)の有効性を主張している製品の有効性を評価していません。現在、新型コロナウイルスに対して数日から数か月間にわたって有効であると主張する資格のあるEPA登録製品はありません(2)。

このように、現時点ではEPAが認可している抗菌コーティングは存在しないと言えます。

また、米国疾病管理予防センター(CDC:Centers for Disease Control and Prevention)は環境表面への接触による感染は、感染機会の10,000分の1未満の確率であると述べています。公共の環境表面からのウイルス伝播のリスクは直接接触、飛沫感染、空気感染によるリスクと比較して著しく低いので、石鹸または洗浄剤を使用して、少なくとも1日1回、定期的に洗浄すれば、環境表面のウイルスレベルを大幅に減らすことができるとしています(3)。

すなわち、抗菌コーティングの有効性に疑問があることと、環境表面が新型コロナウイルスの主な感染源ではないことから、抗菌コーティングを前面に打ち出したアピールには疑問があります。環境表面からの感染を防ぐには、抗菌コーティングではなく、1日1回程度の洗浄剤を用いた清掃と、手指の高頻度接触面に触れた手指の消毒が最も有効な感染対策と言えます。

(著者:浜松市感染症対策調整監/浜松医療センター感染症管理特別顧問 矢野 邦夫)

〔文献〕
(1)EPA:Is there anything I can do to make surfaces resistant to SARS-CoV-2 (COVID-19)?
https://www.epa.gov/coronavirus/there-anything-i-can-do-make-surfaces-resistant-sars-cov-2-covid-19
(2)EPA:Evaluating residual antimicrobial coatings test results
https://www.epa.gov/covid19-research/evaluating-residual-antimicrobial-coatings-test-results
(3)CDC:SARS-CoV-2 and surface (fomite) transmission for indoor community environments
https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/more/science-and-research/surface-transmission.html

著者プロフィール

矢野 邦夫(やの くにお)

浜松市感染症対策調整監/浜松医療センター感染症管理特別顧問

インフェクションコントロールドクター,日本感染症学会専門医・指導医。感染制御の専門家として多くの著書・論文を発表している。主な書籍に「がっちり万全な 新型コロナ感染対策 受験編20」「ばっちり安心な 新型コロナ感染対策 旅行編20」「うっかりやりがちな 新型コロナ感染対策の間違い15」「7日間できらりマスター 標準予防策・経路別予防策と耐性菌対策」「救急医療の感染対策がわかる本」「知って防ぐ!耐性菌 ESBL産生菌・MRSA・MDRP」(以上、ヴァン メディカル刊)など。