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2021.04.16 病原体

コロナワクチンの入院抑制効果はここまで大きい!

著者:渡辺 彰

2021年4月現在、世界では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するワクチン接種が進展し、イスラエルや英国などからCOVID-19発症者の減少が伝えられています。ワクチン効果は通常、臨床試験においてプラセボ等を接種した群の発症者に対し、年齢やその他の条件をマッチさせて、「ワクチンを接種した群で発症者が何%減ったか?」で表します。実臨床ではさらに、入院率や死亡率を比べて重症化の抑制効果を詳細に見ることが出来ます。ワクチン接種の進んでいる英国のスコットランド(人口は約540万人)から、COVID-19ワクチンは1回接種だけでも入院を著明に減少させるという報告が出ました。

スコットランドでは、99%の居住民をカバーする形で各種の医療情報が個人単位で把握できるシステムが確立されており、Vasileiouら(1)はCOVID-19ワクチンの接種歴やリアルタイムPCR検査(ウイルス量を測る検査)の成績、入院などの情報を集め、COVID-19ワクチンの接種で入院がどのように減るのかを前向きに観察しました。すなわち、スコットランドのワクチン接種は2020年12月8日以降、ファイザー社/ビオンテック社のBNT162b2が主に65歳未満で、アストラゼネカ社/オックスフォード大学のChAdOx1は主に80歳以上で始まりましたが、本研究では接種7日目以降1週間ごとのCOVID-19による入院者数を非接種群と比較しています。

BNT162b2では、非接種群(708,129名)を1とした入院率が、接種群では7~13日後(7,766名)に0.62、14~20日後(5,758名)に0.4、21~27日後(4,688名)に0.28、28~34日後(3,346名)に0.15、35~41日後(2,275名)に0.32、42日以降(3,842名)には0.36に低下しました。一方、ChAdOx1では、非接種群(700,859名)を1とした入院率が、接種群では7~13日後(5,721名)に0.3、14~20日後(3,433名)に0.26、21~27日後(1,655名)に0.16、28~34日後(521名)には0.06まで低下しましたが、35日以降は解析対象者の数が少なく、評価していません。

今回の研究で、2つのCOVID-19ワクチンは1回接種だけでも入院を大きく抑えており、最新のNew Engl J Med誌にもBNT162b2で同様の結果がイスラエルから報告されています(2)。実臨床でCOVID-19症例の入院は大きな医療負担になりますので、医療面でも社会への影響という面でも今回の研究の結果は大きな意義を持っています。なお、今後の変異株の増加に対しては、変異株に即時に対応できる修正をインフルエンザワクチンの場合よりも早く行うことが出来そうです。

(著者:東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授/公益財団法人宮城県結核予防会 理事長 渡辺 彰)

〔文献〕
(1)Vasileiou E et al:Effectiveness of first dose of COVID-19 vaccines against hospital admission in Scotland: national prospective cohort study of 5.4 million people.  Preprints with the Lancet.  https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=3789264
(2)Dagan N et al:BNT162b2 mRNA Covid-19 vaccine in a nationwide mass vaccination setting. New Engl J Med 384:1412-1423, 2021

著者プロフィール

渡辺 彰(わたなべ あきら)

東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授
公益財団法人宮城県結核予防会 理事長

日本感染症学会専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会指導医。東北大学加齢医学研究所抗感染症薬開発寄附研究部門教授・日本感染症学会理事・日本結核病学会理事長・日本化学療法学会理事長を歴任。2013年、結核医療とインフルエンザ医療に関する貢献で第65回保健文化賞,2017年、抗インフルエンザ薬の臨床開発とインフルエンザ感染症対策の推進への貢献で日本化学療法学会の第28回志賀 潔・秦 佐八郎記念賞を受賞している。