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2021.03.24 病原体

マウスシールドはやめて欲しい!―最も重要な感染対策はマスクの“適切な”着用

著者:永井 英明

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の患者数が増加傾向を示す中で、緊急事態宣言が3月21日をもって解除となりました。今まで感染対策として、マスクの着用、手指衛生の徹底、相手と2mの距離を保つ、3密を避ける、換気を行う、会食時は黙って食べて話すときはマスクを着用する、などが継続的に言われてきました。しかし、あまりにたくさんの注意事項があげられると、長期間すべてに注意し続けるのは難しくなってしまいますし、疲れてしまいます。上記の各対策は何を目指しているのかを理解しないと守り続けるのは難しいでしょう。

感染対策では感染経路を遮断することを目指します。COVID-19の感染経路は咳やくしゃみ、会話による飛沫感染(2mほど飛ぶ)が主で、エアロゾル感染(2m以上漂うと言われている)も指摘されており、もう一つが患者の飛沫が付いた物を触って感染する接触感染です。これらの感染経路を遮断するにはマスクの着用と手指衛生が基本です。

とくにマスクの着用は最も重要です。発病者は発病の2日前から他の人に移すことがわかっており、無症状患者からの感染が約50%を占めると言われています(1)。患者がマスクを着用することによって感染力が約80%低下することがわかっています(2)。受ける側もマスクを着用すれば、さらに感染力が低下することは明白です。したがって、移さない・もらわないためにすべての人がマスクを着用する必要があるわけです。ただし、マスクを適切に着用しなければいけないのは言うまでもありません。マスクを着用していても、鼻の両側、両方の頬、顎の所が隙間だらけの人を見かけます。ひどい場合は鼻が完全に出ている人もいます。マスクと顔の表面に隙間があればあるほど、患者からの飛沫は飛び出しますし、受ける側も吸い込んでしまいます。したがって、マスクをしっかりと隙間のないように着用する必要があります。すべての人がマスクの“適切な”着用をしていれば、またしゃべらなければ、他のことにあまり神経質にならなくてよいと考えています。静かにしていなければいけないクラシックコンサート、観劇、映画などは人数制限がいらないのではと思っています。

最近、テレビをみていると、マスクでなく透明のマウスシールドで登場する人々を見かけます。マスクでは顔が映らないのでマウスシールドにしているのだと思いますが、全く意味が無いと考えています。飛沫は飛び出しますし、相手からの飛沫も吸い込みます。顔を出したいのであれば、何も付けずに隣の人と2m以上の距離を保つことで感染対策とするべきです。メディアの力は強力ですので、テレビなどでマウスシールドがOKという印象を与えてしまうと危険です。ぜひやめてもらいたいと思います。

接触感染に対しては、手指衛生が基本です。患者が触れた環境の消毒は大事ですが、触れたと思われるすべての物の表面を消毒することは不可能です。考え方としては、環境のすべての物は汚いと思ってください。では、どうするのかというと、手指消毒や手洗いをする前に眼や口を触らない、食事の前には手指衛生を心がけることにつきます。非常にシンプルです。また、携帯用のアルコール消毒液を持つと便利です。ただ、接触感染による感染リスクは飛沫感染による感染リスクほど高くないと考えられています。

たくさんの注意事項を守り続けられないのであれば、「すべての人のマスクの“適切な”着用」が基本中の基本ですので、これの徹底に的を絞って対策を進めることが対策疲れを防ぐのではないでしょうか。

(著者:国立病院機構東京病院 感染症科部長 永井 英明)

〔文献〕
(1) Ferretti L et al:Quantifying SARS-CoV-2 transmission suggests epidemic control with digital contact tracing. Science 368, eabb6936 (2020). DOI: 10.1126/science.abb6936
(2) Ueki H, et al:Effectiveness of Face Masks in Preventing Airborne Transmission of SARS-CoV-2. mSphere 5:e00637-20. https://doi.org/10.1128/mSphere.00637-20.

著者プロフィール

永井 英明(ながい ひであき)

国立病院機構東京病院 感染症科部長

日本結核・非結核性抗酸菌症学会(理事・指導医)、日本呼吸器学会(専門医・指導医)、日本感染症学会(専門医・指導医・ICD)、日本エイズ学会(認定医・指導医)などに所属。専門は呼吸器一般、抗酸菌症、感染症、緩和ケア。多摩府中保健所感染症協議会委員長、東京都医師会感染症予防検討委員会委員、東京iCDC専門家ボード委員などを兼任している。