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2021.03.08 病原体

新型コロナワクチン、1回接種と2回接種

著者:中野 貴司

■ 2回接種のワクチン

北米やヨーロッパでは、新型コロナウイルスの予防ワクチンとして、2020年12月からmRNAワクチン、2021年1月からウイルスベクターワクチンが使われ始めました。mRNAワクチンはファイザー社とモデルナ社、ウイルスベクターワクチンはアストラゼネカ社が製造販売しており、日本でも2021年2月17日からファイザー社のmRNAワクチンの接種が始まりました。

これらのワクチンは、臨床試験によって有効性と安全性が一定水準以上であると評価され、緊急使用が承認されました。そして、臨床試験では対象者に2回の接種を行いました。標準的には、ファイザー社のワクチンは3週間間隔、モデルナ社とアストラゼネカ社のワクチンは4週間間隔で2回の接種を行います。

■ 1回接種のワクチン

2021年2月末から3月にかけて、米国とカナダでジョンソン・エンド・ジョンソン社が製造販売するウイルスベクターワクチンの緊急使用が承認されました。このワクチンの臨床試験は、前述の3ワクチンとは異なり、1回接種の成績が評価されました。8か国で約4万人を対象に行われた試験で、1回のワクチン接種で新型コロナウイルスによる重症患者を予防できる有効率は85%、中等症以上の患者を予防できる有効率は66%と報告されています(1)。

■ 最近の臨床研究の成果

元々は2回接種のワクチンについても、その後の臨床研究により、1回接種による有効性を解析した報告が増えてきています。英国公衆衛生庁の発表によれば、ファイザー社のmRNAワクチンの接種を受けた65歳未満の医療従事者をPCR法で追跡調査した結果、新型コロナウイルスに感染するリスクは1回接種により70%以上、2回接種により85%減少していました(2)。また、1回接種により、80歳以上の発症を予防できる有効率は57%としています(2)。

■ 2回接種と1回接種の考え方

それぞれの研究のデザインや対象者は異なるので、発表されている有効率の数値のみを単純に比較することはできません。また、長期的な予防効果はどの研究でも未判明です。したがって、今後さらに研究データの集積が必要なことは言うまでもありません。また、確実なワクチンの有効性を期待するためには、承認の根拠となった臨床試験の接種回数に基づいて使用することが原則です。

一方、紹介した研究結果は、新型コロナウイルスの蔓延による社会の負担をワクチン普及により軽減できる希望を持たせるとともに、世界的に供給が不足しているワクチンの有効活用の議論に役立つ情報です。新型コロナワクチン、2回接種と1回接種について、さらにエビデンスの集積が待たれます。

(著者:川崎医科大学小児科学 教授 中野 貴司)

〔文献〕
(1)Nature News:J&J’s single-dose COVID vaccine raises hopes for faster rollout. 01 March 2021. https://www.nature.com/articles/d41586-021-00526-w
(2)Public Health England:First real-world UK data shows Pfizer-BioNTech vaccine provides high levels of protection from the first dose. 22 February 2021. https://www.gov.uk/government/news/first-real-world-uk-data-shows-pfizer-biontech-vaccine-provides-high-levels-of-protection-from-the-first-dose

著者プロフィール

中野 貴司(なかの たかし)

川崎医科大学小児科学 教授

1983年信州大学医学部卒業。三重大学小児科・市立尾鷲総合病院・国立病院機構三重病院での勤務、ガーナ野口記念医学研究所(2年間)・中国ポリオ対策プロジェクト(1年間)への派遣などを経て、2010年7月より現職。日本小児科学会専門医・指導医。日本感染症学会専門医・指導医。厚生労働省厚生科学審議会委員、薬事・食品衛生審議会委員、国立研究開発法人審議会委員。