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2021.02.18 病原体

新型コロナ治療 最新知見から見る免疫抑制療法の展望

著者:渡辺 彰

2020年9月に世界保健機関(WHO)が重症例の治療にステロイド薬の投与を推奨するなど、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療は大きく変わってきています。COVID-19の重症例の多くはサイトカインの過剰産生によって重症化していることが分かり、それを抑える治療の重要性が認識されてきたのですが、ステロイド薬以外でも各種薬剤の臨床試験が進行しています。主に関節リウマチの治療薬であるトシリズマブやサリルマブ、あるいはインターフェロンのシグナル伝達に関与するJAK(ヤヌスキナーゼ)を阻害するトファシチニブ、バリシチニブ、ルキソリチニブなどですが、国産のトシリズマブではCOVID-19に伴う肺炎が対象の国内第Ⅲ相臨床試験(J-COVACTA試験)の結果が発表されました(1)。

この試験は、重症COVID-19肺炎の入院患者への標準療法にトシリズマブを併用した前向き試験で、プラセボ投与などの比較対照群は置いていません。2020年5月から10月までに計49例が登録されて48例が評価され、35例が軽快~退院し、5例が死亡していますが、これまで知られていないような副反応はなく、重症例にも安心して投与できると見てよいでしょう。海外では、本剤+レムデシビルの投与とプラセボ+レムデシビルの投与との2つの群の有効性や安全性を比較する第Ⅲ相臨床試験(REMDACTA試験)が進行中であり、その結果が待たれます。

バリシチニブでは、COVID-19入院成人患者を対象に、レムデシビルとの併用療法の有効性と安全性を確認する二重盲検無作為化プラセボ対照試験の結果が発表されました(2)。併用療法群(バリシチニブ群)515例対プラセボ群518例の間で、28日時点の死亡率は5.1%対7.8%で有意差はないものの、回復期間の中央値は併用療法群7日、プラセボ群8日で有意差がありました(P=0.03)。また、重症度が低い例ではバリシチニブ群とプラセボ群の間で改善率に有意差がなかったものの、高流量酸素吸入や非侵襲的人工呼吸を要する重症度の高い例ではバリシチニブ群の改善率が有意に高く、さらに、重篤な有害事象の発現率もプラセボ群の21.0%に対してバリシチニブ群では16.0%と有意に少ない結果でした。加えて、バリシチニブ群の新たな重複感染の併発率は5.9%であって、プラセボ群の11.2%より有意に少ないなど、本剤の投与は特に重症例で有用であると考えてよいでしょう。ステロイド薬のデキサメタゾンと同じような結果です。

今後、他の薬剤の成績も発表されれば、COVID-19の重症例における免疫のコントロールが一層容易になると思われます。

(著者:東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授/公益財団法人宮城県結核予防会 理事長 渡辺 彰)

〔文献〕
(1)中外製薬:新型コロナウイルス感染症に伴う肺炎を対象としたアクテムラの国内第 III 相臨床試験結果について.2021年2月9日.  https://www.chugai-pharm.co.jp/news/cont_file_dl.php?f=210209jACT+J-COVACTA.pdf&src=[%0],[%1]&rep=2,1078
(2)Kalil AC et al: Baricitinib plus Remdesivir for Hospitalized Adults with Covid-19. NIH: Therapeutic management of patients with COVID-19. https://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMoa2031994?articleTools=true

著者プロフィール

渡辺 彰(わたなべ あきら)

東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授
公益財団法人宮城県結核予防会 理事長

日本感染症学会専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会指導医。東北大学加齢医学研究所抗感染症薬開発寄附研究部門教授・日本感染症学会理事・日本結核病学会理事長・日本化学療法学会理事長を歴任。2013年、結核医療とインフルエンザ医療に関する貢献で第65回保健文化賞,2017年、抗インフルエンザ薬の臨床開発とインフルエンザ感染症対策の推進への貢献で日本化学療法学会の第28回志賀 潔・秦 佐八郎記念賞を受賞している。