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2020.11.05 病原体

2020/2021シーズン 今季のインフルエンザはどうなる?

著者:渡辺 彰

インフルエンザと新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の同時流行の可能性が叫ばれていますが、本当に今シーズンは同時流行が起きるのでしょうか?

わが国の昨シーズンのインフルエンザは、早々と12月下旬にピークを迎えて700万人規模の小流行に終わる特異なシーズンとなり、世界も同様でした。COVID-19に対する飛沫感染対策や手指衛生等の予防策がインフルエンザ流行の抑制につながったという見方がありますが、インフルエンザが早々と減り始めた12月下旬には今回のCOVID-19に関する情報は全くありませんでした。新たに出現したCOVID-19がインフルエンザの流行に干渉した(1)という見解の方が説得力はあるようです。

同じ呼吸器ウイルスが競合すれば多くはどちらかが優勢になりますが、過去の罹患や毎年のワクチン接種で多くの人がインフルエンザへの免疫を有する一方、COVID-19にはほとんどの人が免疫を持っていません。今季は、COVID-19に押されてインフルエンザは極めて小規模の流行になると思われます。示唆する例があります。北半球の流行を半年前に示すことの多い南半球の今年の状況です。

南半球のオーストラリアのインフルエンザのピークは毎年8月です。しかし、オーストラリアの保健当局の発表(2)では、例年の流行が本格的となる7月以降、10月下旬に至ってもインフルエンザの患者はほとんど見られず、ゼロに近いと言ってもよいのです。一方のCOVID-19は都市ごとにロックダウンが再び行われるなど再流行しています。わが国でも現在、インフルエンザ患者は極めて少数です。

ただ、わが国の今季のインフルエンザが小規模となって例年の1/10になったとしても、患者は100万人以上発生します。一方のCOVID-19はいくら流行してもこの数字には追いつかないと思われます。重症となる確率が高いCOVID-19への対応に注力できるように、COVID-19対策と重なる「飛沫感染対策や手指衛生」だけでなく、「ワクチン接種、発症時の早期受診と早期治療」と立ち向かう武器が揃っているインフルエンザへの備えが例年以上に重要です。

(著者:東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授/公益財団法人宮城県結核予防会 理事長 渡辺 彰)

〔文献〕
(1)Lina B:Clinical manifestations of COVID-19, influenza and RSV:full webinar.  https://vimeo.com/432055343
(2)Australian Government Department of Health:Australian influenza surveillance report No.14, 2020, 05 to 18 October 2020
https://www1.health.gov.au/internet/main/publishing.nsf/Content/cda-surveil-ozflu-flucurr.htm/$File/flu-14-2020.pdf

著者プロフィール

渡辺 彰(わたなべ あきら)

東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授
公益財団法人宮城県結核予防会 理事長

日本感染症学会専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会指導医。東北大学加齢医学研究所抗感染症薬開発寄附研究部門教授・日本感染症学会理事・日本結核病学会理事長・日本化学療法学会理事長を歴任。2013年、結核医療とインフルエンザ医療に関する貢献で第65回保健文化賞,2017年、抗インフルエンザ薬の臨床開発とインフルエンザ感染症対策の推進への貢献で日本化学療法学会の第28回志賀 潔・秦 佐八郎記念賞を受賞している。