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2020.08.28 領域・分野別

AMR対策アクションプランは抗菌薬耐性菌を減らせたのか? 著者:渡辺 彰

 

2016年、国は『薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン』を発表しました。抗菌薬耐性菌が次第に増加する反面、新規抗菌薬の開発・実用化が相変らず低調なことを受け、既存の抗菌薬の使用量の削減を目指してその適正使用を謳ったものです。数値目標として2020年までに抗菌薬全体の使用量を2/3に削減、特に経口セファロスポリン系薬やフルオロキノロン系薬およびマクロライド系薬は1/2に、静注用抗菌薬は20%削減するというものです。適正使用≒使用抑制であり、その施策も種々取られました。小児科領域では診療報酬上、抗菌薬を処方しないと加算されるというものさえありますが、成果は得られたのでしょうか?

抗菌薬の販売量は確かに減りました。2013年と比べた全国の抗菌薬販売量は2018年に約10.2%減少しています(1)。2016年まではほぼ横ばいだった販売量が2017年に約7.3%減少し、2018年にはさらにそこから約3.0%減少したのです。では、抗菌薬耐性菌は減ったのでしょうか? 残念ながら確たる報告は見当たりません。感染症死亡はどうでしょうか? 抗菌薬投与を手控えて死亡が増えては元も子もありません。

わが国で感染症死亡が最も多い疾患は肺炎です。死因別順位で肺炎は2011年に脳血管疾患を抜き、悪性新生物、心疾患に次ぐ第3位を続けていましたが、2017年に第5位に後退しました。人口10万対死亡率は2011年から2016年まで毎年、95~99を続けていたのですが、2017年には77.7、2018年には76.2と突然かつ急激な減少です。2016年後半から始まったAMR対策アクションプランの成果でしょうか? いえ、統計はよく読みましょう。

厚生労働省の死因統計(2)は、2017年から肺炎と誤嚥性肺炎を分けて集計し始めたのです。従来通り誤嚥性肺炎も一括集計すると、人口10万対死亡率は2017年が106.4、2018年は107.2と、10%以上も急増しています。抗菌薬販売量(≒使用量)の10%以上の低下が肺炎死亡の10%以上の増加を引き起こしたのでしょうか? それは判然とはしませんが、抗菌薬は使うべきところにはきちんと使い、投与期間の短縮などで耐性菌を減らすべきだと思っています。

(著者:東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授/公益財団法人宮城県結核予防会 理事長 渡辺 彰)

〔文献〕
(1)国立国際医療研究センター AMR臨床リファレンスセンター:全国抗菌薬販売量サーベイランス(2013-2018年).http://amrcrc.ncgm.go.jp/surveillance/index.html
(2)厚生労働省:死因簡単分類別にみた性別死亡数・死亡率(人口10万対).
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei18/dl/11_h7.pdf

著者プロフィール

渡辺 彰(わたなべ あきら)

東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授
公益財団法人宮城県結核予防会 理事長

日本感染症学会専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会指導医。東北大学加齢医学研究所抗感染症薬開発寄附研究部門教授・日本感染症学会理事・日本結核病学会理事長・日本化学療法学会理事長を歴任。2013年、結核医療とインフルエンザ医療に関する貢献で第65回保健文化賞,2017年、抗インフルエンザ薬の臨床開発とインフルエンザ感染症対策の推進への貢献で日本化学療法学会の第28回志賀 潔・秦 佐八郎記念賞を受賞している。

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編集:
東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授 渡辺 彰
帝京大学医学部微生物学講座 主任教授 斧 康雄
国立病院機構東京病院 呼吸器センター部長 永井 英明


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