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2020.06.08 病原体

PCR検査とは? PCR検査の落とし穴とは?~巨人軍 坂本・大城両選手の新型コロナウイルス検査陽性から考える①~

著者:渡辺 彰

ウイルス感染症の診断には主に、培養検査と抗原検査、抗体検査があります。最も確実で信頼できるのは培養検査ですが、結果判明まで通常10日~2週間かかります。治療には間に合わないので、臨床現場では抗原検査に頼るのです。インフルエンザの迅速診断もその一つです。

他の病原体が持たず、その病原体だけが持つ成分を特異抗原といい、その陽性はその病原体に感染していることを意味します。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)では、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のみが持つ遺伝子の配列(=並び方の順序)の存在を証明すればよいのですが、患者の検体(鼻腔拭い液や唾液など)中には微量の遺伝子しか出てきていません。その遺伝子を効率良く捕まえるのがPCR(Polymerase Chain Reaction:ポリメラーゼ連鎖反応)検査です。

PCR検査は、あらかじめ検査試薬の中に各種の病原体の遺伝子の片割れを入れておき、もし検体の中にSARS-CoV-2の遺伝子があれば、それが試薬中のSARS-CoV-2の片割れ遺伝子とくっつく性質を利用するのです。くっついたり剥がれたりの反応を何十回も繰り返すと倍々ゲームでこの遺伝子だけが増え、目に見えるようになって陽性と確認できるのです。

しかし、PCR検査には落とし穴があります。遺伝子というウイルスの一部を増幅するだけですから、それが感染性のあるウイルス由来なのか、壊れたウイルスの断片なのかは分かりません。結核の診断でもPCR検査が使われますが、治療後の治った時点でもPCR検査が時に陽性になります。壊れてバラバラになった結核菌を見ているのです。ですから、結核の治癒判定に使うべきではないとされています。

無症候者のPCR検査がよく陽性になりますが、治りがけという可能性もあります。先日の、巨人軍の坂本・大城両選手が抗体検査陽性の次に行ったPCR検査が微陽性、次いで陰性となったのはそういう事情も考えられます。PCR検査陽性=感染性あり、ではないこともある訳ですが、PCR陽性でも感染性がないことは今の技術ではすぐに確認できないので、「感染性あり」と見なして大事をとり、2週間の隔離などを行っているのです。

(著者:東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授/公益財団法人宮城県結核予防会 理事長 渡辺 彰)

著者プロフィール

渡辺 彰(わたなべ あきら)

東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授
公益財団法人宮城県結核予防会 理事長

日本感染症学会専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会指導医。東北大学加齢医学研究所抗感染症薬開発寄附研究部門教授・日本感染症学会理事・日本結核病学会理事長・日本化学療法学会理事長を歴任。2013年、結核医療とインフルエンザ医療に関する貢献で第65回保健文化賞,2017年、抗インフルエンザ薬の臨床開発とインフルエンザ感染症対策の推進への貢献で日本化学療法学会の第28回志賀 潔・秦 佐八郎記念賞を受賞している。