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2020.04.24 病原体

矢野邦夫タイムズ WHO COVID-19 ぷちREPORT No.3 新型コロナウイルスの発生源について

著者:矢野 邦夫

最近、中国の武漢ウイルス研究所が新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)発祥の地だと信じる人が増えています。これについて、WHOはホームページで否定的な見解を述べているので、そのポイントを紹介します(1)。

■ポイント:ウイルスの遺伝子配列は公開されており、このウイルスが人工産物であれば、その遺伝子情報にも痕跡が残るはずである。しかし、そのようなことはない

COVID-19の最初のヒト症例は、2019年12月に中国武漢市の当局者によって最初に報告されました。中国当局による遡及調査により、 2019年12月初旬に発症した症例が同定されました。

SARS-CoV-2は1月上旬に同定され、その遺伝子配列は1月11〜12日に公開されています。初期のヒトの症例からのSARS-CoV-2の完全な遺伝子配列と、中国および世界中のヒトの症例から分離された他の多くのウイルスの配列は、SARS-CoV-2がコウモリに生態学的起源があることを示しています。これまでに入手可能なすべてのエビデンスは、ウイルスが天然の動物起源であり、操作または構築されたウイルスではないことを示しています。

多くの研究者がSARS-CoV-2のゲノムの特徴を調べることができますが、これまでのところSARS-CoV-2が実験室で作られたというエビデンスはありません。もし、それが人工的に作られたウイルスであれば、そのゲノム配列は人工部分と自然部分の混合パターンを示すはずです。

■ポイント:SARS-CoV-2はコウモリ由来ではあるが、ヒトに感染するまでに経由した中間動物宿主または人畜共通感染源は不明である

2003年に重症急性呼吸器症候群(SARS)の原因ウイルスであるSARS-CoV-1はコウモリから分離された他のコロナウイルスと密接に関連していました SARS-CoV-1、SARS-CoV-2、および他のコロナウイルスの密接な遺伝的関係は、それらすべてがコウモリに生態学的起源を持っていることを示唆しています。そして、これらのコロナウイルスの多くは、いくつかの動物種にも感染します。たとえば、SARS-CoV-1はジャコウネコに感染し、それからヒトに感染しました。中東呼吸器症候群の原因ウイルス(MERS-CoV)はヒトコブラクダに発見され、2012年以来ヒトに感染し続けています。

SARS-CoV-2にも人獣共通感染源があると推測されます。通常、ヒトとコウモリの間には密接な接触はないので、ウイルスがヒトに伝染するためには、ヒトによって処理される可能性が高い別の動物種が存在するはずです。このような中間動物宿主または人畜共通感染源は、家畜、野生動物、または家畜化された野生動物である可能性があり、現時点ではまだ特定されていません。

■ポイント:今後も発生するであろう新興感染症を防ぐためには、今ここでSARS-CoV-2の発生経過を追究することが極めて重要である

中国での集団発生の原因をよりよく理解するために、下記のような調査が現在進行中または計画されています。これらの研究の結果は、SARS-CoV-2が人類にさらに人獣共通感染するのを防ぐために不可欠です。

・2019年後半に武漢およびその周辺で発症したヒトの症例を調査する
・最初のヒトの症例があった地域の市場および農場から環境サンプリングを行う
・これらの市場で販売されている野生生物種と飼育動物の出所と種類を詳細に調査する

〔文献〕
(1)WHO:SUBJECT IN FOCUS:Origin of the severe acute respiratory syndrome coronavirus-2 (SARS-CoV-2), the virus causing COVID-19
https://www.who.int/docs/default-source/coronaviruse/situation-reports/20200423-sitrep-94-covid-19.pdf?sfvrsn=b8304bf0_4

著者プロフィール

矢野 邦夫(やの くにお)

浜松医療センター 院長補佐 兼 感染症内科部長 兼 衛生管理室長

インフェクションコントロールドクター,日本感染症学会専門医・指導医。感染制御の専門家として多くの著書・論文を発表している。主な書籍に「救急医療の感染対策がわかる本」,「知って防ぐ!耐性菌 ESBL産生菌・MRSA・MDRP」(ヴァン メディカル刊)など。