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2020.03.27 領域・分野別

今さら聞けない! 標準予防策 ③咳エチケット

著者:矢野 邦夫

咳エチケットでは、咳や鼻水などの症状のある人は咳をする時にティッシュにて口と鼻を覆い、呼吸器分泌物に接触した後は手指衛生をすることが求められます。咳エチケットは2003年に世界中に拡散した重症急性呼吸器症候群(SARS:severe acute respiratory syndrome)の影響を受けて始まった感染対策です。この時、救急外来を受診した患者や同伴家族がSARSコロナウイルスを周辺の人々に伝播させました。このような感染を防ぐために、救急外来や病院受付の最初段階で咳エチケットを実施して、感染予防策を強化することになったのです。

呼吸器感染症はすべてが診断されていることはなく、未診断の感染力のある呼吸器感染症の患者が来院することがあります。この時、同伴家族や同伴の友人も患者と濃厚接触していることから、その病原体に感染している可能性があります。これらの人々をターゲットとして、咳、充血、鼻水、呼吸器分泌物の増加といった症状があれば咳エチケットを実施してもらいます。咳エチケットが必要な疾患はインフルエンザ、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)、麻疹、風疹といったウイルス感染症のみならず、百日咳などの細菌感染症も含まれます。これらの感染症は症状のみでは区別できません。また、発熱や咳などの症状についても様々です。したがって、感染症の種類や有無を問わず、咳や鼻水などの症状のある人々は咳エチケットをしなければなりません。

咳エチケットでは「①医療施設のスタッフ、家族、面会者を啓発する」「②患者、付き添い家族、友人への教育にポスターを活用する」「③咳をする時にはティッシュにて口と鼻を覆う、使用したティッシュは捨てる、咳をしている人はサージカルマスクを装着する」「④呼吸器分泌物に接触した後は手指衛生をする」「⑤一般待合室においては呼吸器感染症のある人から距離を置く(理想的には>1m)」などが実施されます。咳エチケットというと、一般の人々は「咳をする時にはティッシュにて口と鼻を覆う」だけと思っていることが多いのですが、手指衛生も咳エチケットの重要な要素であることを啓発する必要があります。

百日咳や軽度の上気道感染では発熱を呈さないことがあります。そのため、発熱がないからといって呼吸器感染症を除外することはできません。喘息、アレルギー性鼻炎、慢性閉塞性肺疾患の患者が咳やくしゃみをすることがあります。これらの患者には感染性はありませんが、やはり咳エチケットは必要です。

著者プロフィール

矢野 邦夫(やの くにお)

浜松医療センター 院長補佐 兼 感染症内科部長 兼 衛生管理室長

インフェクションコントロールドクター,日本感染症学会専門医・指導医。感染制御の専門家として多くの著書・論文を発表している。主な書籍に「救急医療の感染対策がわかる本」,「知って防ぐ!耐性菌 ESBL産生菌・MRSA・MDRP」(ヴァン メディカル刊)など。