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2021.11.08 病原体

新型コロナ後遺症に悩む人増加中 ―日本のLong-COVID(ロングコビッド)の実態

著者:永井 英明

日本の新型コロナウイルス(コロナ)感染症患者数はこのところ激減しており、世の中には安心感が広がりつつあります。しかし、欧米ではワクチン接種が進みましたが、感染対策が緩和されたことにより、再び患者数が増加しています。いわゆるブレイクスルー感染が起こっています。ワクチン接種が進んでも、マスクの着用、3密を避ける、換気に注意するなどの感染対策は、当分の間緩められないことがわかります。

コロナ感染後に4週間以上症状が続く場合があります。これを日本では後遺症と言っていますが、海外ではLong-COVID(ロングコビット)あるいはPost-COVID(ポストコビット)などと言っています。米国では後者を用いており、身体的症状や精神的症状を広く拾い上げるにはふさわしい呼び名としています。コロナ感染症は全身の臓器に影響を及ぼすので、いろんな臓器症状が出ます。コロナ自体による臓器障害が残ったり、もともと持っていた持病が悪化して長引いたり、コロナに感染したことによるストレスが精神的な障害を引き起こしたりと、後遺症として残る症状の原因がコロナウイルスによるものだけでない可能性があります。いずれにしても、コロナ感染をきっかけにつらい症状が長引いている人がいることは確かで、若い人も重症例が少ないと安心してはいけません。

日本のいくつかの研究からいろんな事がわかってきました。退院から3ヵ月以上経過した512例では、入院時の症状が重いほど後遺症が残り、重症例では筋力低下が77%、息苦しさが50%に残ったという結果でした。525例の入院例では、診断後6ヵ月経っても10%以上の人に残った症状は、疲労感・倦怠感(21%)、息苦しさ(13%)、睡眠障害(11%)、思考力・集中力の低下(11%)、脱毛(10%)でした。上記の2つの研究では入院例が対象で、比較的重症度が高い症例についての報告です。軽症例が84.4%を占める457例の研究では、発症から6ヵ月後および12ヵ月後まで残った症状の比率は、それぞれ嗅覚障害7.7% 1.1%、倦怠感6.6% 3.1%、息切れ3.9% 1.5%、味覚障害3.5% 0.4%、咳2.4% 1.1%でした。いずれの症状も時間の経過とともに改善していますが、長期間つらい思いをしなければならない人がいることがわかります。現時点では、後遺症をたちどころに治せる治療法はないことも知っておいてください。

緊急事態宣言が解除され、いろいろな制限が緩和され、たくさんの人々が外出を楽しむようになりました。コロナの重症例も減少していますが、軽症例でも後遺症に苦しむ場合がありますので、しばらくの間はマスクの着用を基本とした感染対策を守り続ける事が大事です。

(著者:国立病院機構東京病院 感染症科部長 永井 英明)

著者プロフィール

永井 英明(ながい ひであき)

国立病院機構東京病院 感染症科部長

日本結核・非結核性抗酸菌症学会(理事・指導医)、日本呼吸器学会(専門医・指導医)、日本感染症学会(専門医・指導医・ICD)、日本エイズ学会(認定医・指導医)などに所属。専門は呼吸器一般、抗酸菌症、感染症、緩和ケア。多摩府中保健所感染症協議会委員長、東京都医師会感染症予防検討委員会委員、東京iCDC専門家ボード委員などを兼任している。