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2021.10.19 病原体

コロナワクチンの効果はどのくらい続くのか?

著者:渡辺 彰

2021年10月6日のNew England Journal of Medicine誌のオンライン版に、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するワクチンの効果の持続に関する論文が2つ掲載されました。一つは、ファイザー社のワクチン(BNT162b2)を2回接種した医療従事者を対象に抗スパイクIgG抗体と中和抗体価を測定した基礎的成績であり、もう一つは、一般住民におけるBNT162b2接種開始後のCOVID-19の発症状況を解析した臨床的成績です。

Levinら(1)は、BNT162b2の接種を完了したイスラエルの医療従事者3,808人を対象に6か月間の毎月、抗体価を測定しました。血中の抗スパイクIgG抗体価は一定の割合で減少する一方、中和抗体価は最初の3か月間に急速に減少し、その後は比較的ゆっくり減少したということです。また、男性、65歳以上の高齢者、免疫抑制状態にある例で中和抗体価の低下がより強かったとしています。

一方、Chemaitellyら(2)は、2021年1月1日~9月5日のカタール居住民の全国的なデータベースから、ワクチン接種歴を含むCOVID-19関連のデータを抽出し、PCR陽性のCOVID-19症例とPCR陰性の症例とを各種の条件について1対1でマッチさせて解析しました。なお、カタールでは2021年9月7日時点で12歳以上の8割以上がBNT162b2の2回接種を完了しており、我が国より進展しています。

無症候性感染を含めたCOVID-19の感染や発症を抑える効果は、接種完了後1か月後で最も高い77.5%となってその後は少しずつ低下し、接種から5か月以降は20%前後になっています。症候を有する例に限るとその効果はもっと高く、その効果のピークは81.5%で、無症候性感染例の73.1%より高くなっていました。この開きはその後も一貫して続き、変異株の別や年齢別にみても効果が変化するパターンは同じでした。ただ、どちらの例でも時間とともに効果が低下しています。一方で、重症化や死亡を抑える効果は極めて高く、接種完了から2か月後には96%以上に達し、感染や発症を抑える効果とは異なってほぼ6か月間持続していたということです。

感染や発症を抑える効果も高いが、重症化や死亡を抑える効果はもっと高いというCOVID-19ワクチンの特長は、3回目の追加接種(ブースター接種)の後にも同じように見られます(3)。ただ、時間とともに効果の低下は避けられないので、ワクチン接種に求められている回数をしっかりこなすことがCOVID-19を抑えていく重要な方策です。

(著者:東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授/公益財団法人宮城県結核予防会 理事長 渡辺 彰)

〔文献〕
(1)Levin EG et al:Waning immune humoral response to BNT162b2 Covid-19 vaccine over 6 months. New Engl J Med, published online, Oct 6, 2021, DOI: 10.1056/NEJMoa2114583
(2)Chemaitelly H et al:Waning of BNT162b2 vaccine protection against SARS-CoV-2 infection in Qatar. New Engl J Med, published online, Oct 6, 2021, DOI: 10.1056/NEJMoa2114114
(3)Bar‑On YM et al:Protection of BNT162b2 vaccine booster against COVID-19 in Israel. New Engl J Med, published online, Sept 15, 2021, DOI: 10.1056/NEJMoa2114255

著者プロフィール

渡辺 彰(わたなべ あきら)

東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授
公益財団法人宮城県結核予防会 理事長

日本感染症学会専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会指導医。東北大学加齢医学研究所抗感染症薬開発寄附研究部門教授・日本感染症学会理事・日本結核病学会理事長・日本化学療法学会理事長を歴任。2013年、結核医療とインフルエンザ医療に関する貢献で第65回保健文化賞,2017年、抗インフルエンザ薬の臨床開発とインフルエンザ感染症対策の推進への貢献で日本化学療法学会の第28回志賀 潔・秦 佐八郎記念賞を受賞している。