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2021.09.28 病原体

病原体? 耐性菌??―感染対策超入門

著者:矢野 邦夫

「病原体」とは、気の因となるということでしょうか? 言葉の由来を調べたのですが、確定できませんでした。類似した用語に「病原菌」「原因菌」「起因菌」「起炎菌」「微生物」などがありますが、これらの使い分けは人によって異なると思います。

感染症の原因となるのは細菌のみではないので、「病原菌」ではウイルスなどが含まれなくなってしまいます。「原因菌」も同様ですが、「原因ウイルス」「原因真菌」という派生語が使用できるので、医療界では使用されている用語です。「起因菌」「起炎菌」もしばらく前まで使用されていましたが、最近は「原因菌」に吸収されてきているようです。そうすると、「病原体」に近い言葉として「微生物」があるということになります。ただ、気になるのは「生物」という文字です。ウイルスやプリオンが生物と言い切れないからです。ウイルスは遺伝子しか持っておらず、寄生した細胞の持つ仕組みを借りなくてはなりません。生物というよりも物質です。プリオンは蛋白です。そのため、「微生物」にウイルスとプリオンを含めるのには抵抗を感じます。やはり、ベストなのは「病原体」ということになります。

「耐性菌」についてはどうでしょうか? 細菌だけが耐性になるのでしょうか? ウイルスや真菌も耐性化することがあります。そのため「耐性病原体」というのがベストかもしれません。しかし、日常的に遭遇する耐性病原体のほとんどが細菌であることから、「耐性菌」という用語でほとんどが事足りてしまいます。耐性菌は抗菌薬に耐性となった細菌のことであり、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)や多剤耐性緑膿菌(MDRP)など様々な耐性菌が問題となっています。特に、淋菌は耐性化がものすごく進んでいて、耐性淋菌ばかりです。昔は使用できた抗菌薬のほとんどで効果がなくなり、現在は、セフトリアキソンという注射用抗菌薬しか効果が期待できません。これについても、耐性の淋菌が報告されているので、お先真っ暗の状況となってきました。

(著者:浜松市感染症対策調整監/浜松医療センター感染症管理特別顧問 矢野 邦夫)


【掲載】
2021年10月刊行新刊書籍「感染対策超入門―成功の秘訣」(矢野邦夫 著,ヴァンメディカル刊)より

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著者プロフィール

矢野 邦夫(やの くにお)

浜松市感染症対策調整監/浜松医療センター感染症管理特別顧問

インフェクションコントロールドクター,日本感染症学会専門医。感染制御の専門家として多くの著書・論文を発表している。主な書籍に「がっちり万全な 新型コロナ感染対策 受験編20」「ばっちり安心な 新型コロナ感染対策 旅行編20」「うっかりやりがちな 新型コロナ感染対策の間違い15」「7日間できらりマスター 標準予防策・経路別予防策と耐性菌対策」「救急医療の感染対策がわかる本」「知って防ぐ!耐性菌 ESBL産生菌・MRSA・MDRP」(以上、ヴァン メディカル刊)など。