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2021.09.22 病原体

そもそも感染ってなに?―感染対策超入門

著者:矢野 邦夫

「透明人間」を題材とした映画が幾つかあります。どれもサスペンス映画になっています。人間の体が透明になるという設定なのですが、「腸内細菌や皮膚に生息している病原体も透明になるのだろうか?」と考えてみるのはどうでしょう。もし、人間の筋肉、皮膚、血液などを透明にできて、病原体は透明化できない状況を想像したら、その画像はサスペンスどころではなくなるでしょう。鼻腔、皮膚、肺、腸管などに生息している病原体によって形どられた人間の姿ということになります。是非とも想像してみてください。

「そもそも感染ってなに?」という問いに簡単に回答するならば、「細菌やウイルスなどの病原体が、ヒトの組織内に侵入して増殖または生息する状態」となります。この場合、感染者には臨床症状がみられることもあるし(「顕性感染」)、症状が全くみられないこともあります(「不顕性感染」または「潜伏感染」)。ただ、病原体が人間の体内に侵入し始めたら全てが感染するわけではないことは強調しておきたいと思います。その病原体に感受性のある人が感染するのであって、感受性のない人は感染しないのです。例えば、以前に麻疹に罹患したことのある人が麻疹ウイルスに曝露しても、再び麻疹に罹患することはありません。麻疹の既往のある人は麻疹ウイルスに対する免疫を持っているため、麻疹ウイルスへの感受性がないからです。

感染が成立するためには五つの条件が必要です(1)。

〔感染が成立するための五つの条件〕
①病原体に十分な毒力があり、疾患を引き起こすために十分な病原体数が存在する
②病原体がその生息場所や感染源にて生存し増殖できる
③感染源から宿主への感染経路が成立する
④宿主への病原体の侵入口が開かれている
⑤宿主に感受性がある(免疫のない人など)

病原体が宿主に感染するためにはこれらの条件すべてを成立させなくてはなりません。逆に、これらの一つでも成立させないようにすれば、感染対策は成功するといえます。

〔文献〕
(1) CDC:Guidelines for infection control in dental health-care settings — 2003. MMWR Recomm Rep 52(RR-17):1-61, 2003
http://www.cdc.gov/mmwr/PDF/RR/RR5217.pdf

(著者:浜松市感染症対策調整監/浜松医療センター感染症管理特別顧問 矢野 邦夫)


【掲載】
2021年10月刊行新刊書籍「感染対策超入門―成功の秘訣」(矢野邦夫 著,ヴァンメディカル刊)より

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著者プロフィール

矢野 邦夫(やの くにお)

浜松市感染症対策調整監/浜松医療センター感染症管理特別顧問

インフェクションコントロールドクター,日本感染症学会専門医。感染制御の専門家として多くの著書・論文を発表している。主な書籍に「がっちり万全な 新型コロナ感染対策 受験編20」「ばっちり安心な 新型コロナ感染対策 旅行編20」「うっかりやりがちな 新型コロナ感染対策の間違い15」「7日間できらりマスター 標準予防策・経路別予防策と耐性菌対策」「救急医療の感染対策がわかる本」「知って防ぐ!耐性菌 ESBL産生菌・MRSA・MDRP」(以上、ヴァン メディカル刊)など。