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2021.08.23 病原体

ラムダ株の今わかっていること―日本襲来に備えて

著者:矢野 邦夫

最近、マスコミがラムダ株(C.37系統)について大きく取り上げています。日本においても、羽田空港の検疫でラムダ株の感染者が確認され、大騒ぎとなりました。ラムダ株は本当に凄まじい感染力と狂暴性を兼ねそろえた変異株なのでしょうか?

この変異株はペルーで2020年12月に最初に検出され、2021年6月14日に世界保健機関(WHO)がラムダ株と命名しました。ラムダ株の感染力やワクチンの効果については実験室レベルの報告がいくつかあります。確かに、ラムダ株は感染力が強く、ワクチンの効果が減弱する可能性を示した報告はあります(1)。一方、ワクチンはラムダ株にも有効性を示し、抗体カクテル療法も有効であろうという報告もあります(2)。いずれにしても、実験室レベルの結果は必ずしもリアルワールド(実世界)でのラムダ株の感染力やワクチンの効果を示している訳ではありません。

もし、デルタ株(B.1.617.2系統)が蔓延している地域にラムダ株が入り込み、デルタ株を駆逐してゆくという現象が確認されれば、リアルワールドでラムダ株がデルタ株よりも感染力が強いことが証明されることになります。現在、ペルーでラムダ株が猛威を振るっていますが、それまでデルタ株が流行していたわけではありません(3)。アルファ株(B.1.1.7系統)は存在しており、ラムダ株が優勢になるに従って減少したため、アルファ株よりラムダ株の方が感染力は強いかもしれません。しかし、現時点では、ラムダ株がデルタ株を駆逐したという現象は世界のどこにも確認されていません。そのため、デルタ株が流行している日本において、ペルーのようにラムダ株が主流になるかどうかは疑問があるところです。

変異株には数多くのものがありますが、そのなかで問題となりそう、もしくは問題となっている変異株を「注目すべき変異株」「懸念すべき変異株」に位置付けています。「注目すべき変異株」はアミノ酸変異があり、感染力や重篤度・ワクチンの効果などに影響を与える可能性が示唆される変異株です。「懸念すべき変異株」は感染力や重篤度が増したり、ワクチンの効果を弱めるなど性質が変化したエビデンスのある変異株のことです。どの変異株をどのように位置付けるかは国によって異なります。現在、日本で問題となっているデルタ株や最近まで全国に蔓延していたアルファ株は「懸念すべき変異株」に位置付けられています。

WHOはラムダ株を「注目すべき変異株」に位置付けています(4)。米国および日本では「注目すべき変異株」にも「懸念すべき変異株」にも位置付けていません(5,6)。今後、ラムダ株が「注目すべき変異株」に位置付けられる日が来るかもしれませんが、現時点では大騒ぎする必要はなさそうです(これは、2021年8月23日までのエビデンスに基づく意見です)。

(著者:浜松市感染症対策調整監/浜松医療センター感染症管理特別顧問 矢野 邦夫)

〔文献〕
(1)Acevedo ML et al:Infectivity and immune escape of the new SARS-CoV-2 variant of interest Lambda. medRxiv, doi: https://doi.org/10.1101/2021.06.28.21259673
(2)Tada T et al:SARS-CoV-2 Lambda Variant Remains Susceptible to Neutralization by mRNA Vaccine-elicited Antibodies and Convalescent Serum. bioRxiv,doi: https://doi.org/10.1101/2021.07.02.450959
(3)News medical life sciences:SARS-CoV-2 Lambda variant spreading rapidly in South America, report reveals
https://www.news-medical.net/news/20210707/SARS-CoV-2-Lambda-variant-spreading-rapidly-in-South-America-report-reveals.aspx
(4)WHO:Tracking SARS-CoV-2 variants
https://www.who.int/en/activities/tracking-SARS-CoV-2-variants/
(5)CDC:SARS-CoV-2 variant classifications and definitions
https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/cases-updates/variant-surveillance/variant-info.html
(6)国立感染症研究所:感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の新規変異株について(第11報)
https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2484-idsc/10530-covid19-50.html

著者プロフィール

矢野 邦夫(やの くにお)

浜松市感染症対策調整監/浜松医療センター感染症管理特別顧問

インフェクションコントロールドクター,日本感染症学会専門医。感染制御の専門家として多くの著書・論文を発表している。主な書籍に「がっちり万全な 新型コロナ感染対策 受験編20」「ばっちり安心な 新型コロナ感染対策 旅行編20」「うっかりやりがちな 新型コロナ感染対策の間違い15」「7日間できらりマスター 標準予防策・経路別予防策と耐性菌対策」「救急医療の感染対策がわかる本」「知って防ぐ!耐性菌 ESBL産生菌・MRSA・MDRP」(以上、ヴァン メディカル刊)など。