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2021.05.31 病原体

思わずツッコミたい新型コロナ対策 「除菌」「殺菌」「消毒」のごちゃまぜ 著者:矢野 邦夫

 

新型コロナウイルスは環境表面で比較的長期間、感染性を保っていることが知られています(1)。そのため、ドアノブや手すりのような高頻度接触面に付着しているかもしれないウイルスを恐れることになりました。その結果、ウイルスの抑制に関する用語(「滅菌」「消毒」「除菌」「殺菌」「抗菌」など)が乱用されるようになったのです。多くの人はこれらの用語を見て、何となく雰囲気的に「新型コロナウイルスを減少、もしくは殺滅させるのであろう」と感じていることと思います。しかし、コロナ禍であるからこそ、これらの用語を適切に理解し、感染から身を守ることが大切です。

まず、基本中の基本である「滅菌」「消毒」「洗浄」について説明します。これには米国疾病管理予防センター(CDC)のガイドラインが参考になります(2)。「滅菌」は芽胞を含むすべての微生物を破壊する過程です。芽胞というのは殺滅することが最も難しい細菌の形態です。「消毒」はほとんどすべての微生物を破壊しますが、芽胞などの一部は破壊できないことがあります。「洗浄」は洗剤や界面活性剤にて汚れを洗い落とし、水にてすすぐといった物理的な方法によって、表面から多数の微生物を除去することです。滅菌や消毒を実施ときには、対象物に汚れが残っていたり、多数の微生物が残っていると効果が不十分となります。そのため、予め対象物を洗浄してから、滅菌と消毒を実施します。このように「滅菌」「消毒」「洗浄」は厳格に定義されており、医療現場での器材の処置に使用されています。

一方、「殺菌」「除菌」「抗菌」については日本石鹸洗剤工業会の石鹸洗剤知識が参考になります(3)。「殺菌」は文字通り「菌を殺す」ということですが、殺した程度を含んではいません。すなわち、一部の細菌を殺しただけでも殺菌とえることになります。「除菌」は微生物の数を減らし、清浄度を高めることです。そのため、相当数の微生物が残存しても除菌したことになります。「抗菌」は「菌の繁殖を防止する」という意味です。繁殖防止の程度は含まれていません。

このことから明らかなように、「殺菌」「除菌」「抗菌」の効果のレベルはかなり曖昧であると言えます。現在、様々な抗菌グッズや除菌シートなるものが販売されており、実際にそれが有用であると信じている人が数多くいます。本当に新型コロナウイルス対策で有効であるのか、購入時や使用時には製品を再確認していただきたいと思います。

(著者:浜松市感染症対策調整監/浜松医療センター感染症管理特別顧問 矢野 邦夫)

〔文献〕
(1)van Doremalen N et al:Aerosol and surface stability of SARS-CoV-2 compared with SARS-CoV-1. N Engl J Med 382:1564-1567, 2020
(2)CDC:Guideline for disinfection and sterilization in healthcare facilities, 2008
https://www.cdc.gov/infectioncontrol/pdf/guidelines/disinfection-guidelines-H.pdf
(3)日本石鹸洗剤工業会:石鹸洗剤知識
https://jsda.org/w/03_shiki/a_sekken30.html

著者プロフィール

矢野 邦夫(やの くにお)

浜松市感染症対策調整監/浜松医療センター感染症管理特別顧問

インフェクションコントロールドクター,日本感染症学会専門医・指導医。感染制御の専門家として多くの著書・論文を発表している。主な書籍に「がっちり万全な 新型コロナ感染対策 受験編20」「ばっちり安心な 新型コロナ感染対策 旅行編20」「うっかりやりがちな 新型コロナ感染対策の間違い15」「7日間できらりマスター 標準予防策・経路別予防策と耐性菌対策」「救急医療の感染対策がわかる本」「知って防ぐ!耐性菌 ESBL産生菌・MRSA・MDRP」(以上、ヴァン メディカル刊)など。

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